コウモリスプレーはなぜ効かないのか?動物行動学と論文から忌避剤の効果と限界を解説

こんにちは。長野県でコウモリの生態調査と野生生物の建築物侵入メカニズムを専門に研究している、かわほりプリベント代表の山岸淳一です。長野県におけるコウモリ・野生動物対策の専門研究機関として、科学的エビデンスに基づいた正確な情報をお届けします。

5年前にこの記事の前身となるコウモリ忌避剤についてのコラムを公開してから、市場には「忌避スプレー」だけでなく、ゲルやハーブなど、さまざまなタイプのコウモリを「匂いで追い払う忌避剤(きひざい)」が溢れるようになりました。

しかし、最新の動物行動学の知見に照らし合わせれば、これら「匂い系」の対策が抱える弱点はどれも同じです。専門家として、最新の科学的エビデンスと実務経験を統合し、この記事を全面的に書き直しました。コウモリ対策への理解の一助となれば幸いです。

この記事を読むとわかること

  • 1章:市販スプレーのパッケージに書かれた「持続時間」の謎
  • 2章:ハッカやハーブの匂いをコウモリがすぐに無視できてしまう生物学的な理由
  • 3章:良かれと思って吹いたスプレーが、コウモリを壁の中や断熱材の中に追い込み死を招くリスク
  • 4章:匂いに頼らずに建物を守る、世界のプロが実践している根本的な解決策
  • 5章:コウモリ追い出しの正しい手順と、2026年に登場する新対策
夕暮れ時にモダンな住宅の上空を飛来する複数のコウモリ(イメージ)

市販のコウモリ駆除スプレー・忌避剤の現状と効果をさぐる

  • 市販スプレーの持続時間は成分がそこに残る目安。追い出し効果の保証ではない可能性が高い。
  • メーカーの但し書きは現場の多様な環境や実行不可能性を考慮していない。
  • 消費者が期待する結果とメーカーが表示する物理現象には決定的なズレがある。

日本の市場で一般的に入手できる、コウモリ対策を目的としたスプレーや忌避剤。これらを現場のプロの視点で読み解くと、消費者の期待とメーカーの表示の間に「3つの決定的なズレ」が存在することがわかります。

これは、日本で市販されているコウモリ用スプレーや忌避剤の多くは「医薬品や動物用医薬品」ではなく、厳しい検査が必要がない「雑品(日用品)」として販売されていることが理由のひとつです。

例えば、国民生活センターの調査で、不快害虫用の家庭用忌避剤について、公的な効能試験や第三者による評価が義務づけられていない実態があることが指摘されています。

この報告では、パッケージに記載された持続時間や効果が、科学的な行動試験に裏打ちされた数値とは限らないということが示唆されています。

国民生活センター「家庭用忌避剤の効能と安全性-不快害虫用を中心として-」2003:外部リンク

厳しい第三者評価データが求められない製品であるからこそ、パッケージの表記と現実のコウモリの動きに以下の乖離が生まれるのです。

我々が「効果」という言葉を聞いて、期待するのは、その結果です。例えば医薬品の解熱剤ならば、熱が下がる。咳止めならば、咳がとまる。こういうことです。

しかし、コウモリ忌避剤のパッケージで表記されている「効果や時間」とは、この効果と同じ意味合いをもっているのでしょうか?

この効果時間は、コウモリが嫌がり続ける時間とは、実は違うのではないか?という疑問がわいてきます。

ズレ1:持続時間の定義(成分の残存か、コウモリの忌避か)

探るうえで、まず現在流通している主な製品は、形状、成分、および表記されている持続時間によって以下のようにまとめてみます。

製品の形状主な有効成分持続時間の表記
スプレー型(エアゾール)ハッカ油、メントール、天然香料3時間〜24時間程度
固形・錠剤型ハーブ、香料、ナフタリン2週間〜1ヶ月程度
ゲル・パウダー型ハーブ、香料1ヶ月〜1年程度

有効成分に多少の差はあれど、強い匂いの刺激でコウモリを忌避させるという理論の仕組みであり、スプレー型(ハッカ油等)で3時間〜24時間程度、固形・ゲル型(ハーブ等)で2週間〜1年程度といった持続時間が記載されています。

しかし、この持続時間にズレがあります。

ここで消費者が期待する「コウモリが寄り付かず、逃げ続ける結果が続く時間」と、メーカーが表示する「壁や空間に有効成分が漂ったり付着し続けたりする物質の残存目安」は、別物です。

成分がそこにあること(メーカー側の主張:物理的な残存)は、生き物が逃げ続けること(消費者の期待:行動の抑制)とイコールではなく、生き物が逃げ続けること、嫌がり続けることの証明にはならない。これを理解する必要があります。

ズレ2:使用環境の条件(実験室と実際の現場の差)

次に、多くのコウモリ忌避製品には「効果や持続時間は材質、使用環境により異なります」という注釈がついています。これはいったい何を意味するのか?を考えてみます。コウモリの忌避剤使用場所のパターンは2つに分けられます。

  • 外壁(屋外):雨や風、日光にさらされ、匂いがすぐに流れてしまう過酷な環境。コウモリの壁どまり対策。
  • 天井裏(屋内):空気は滞留するが、断熱材の裏など薬剤が物理的に届かない死角が多い環境。コウモリの住み着き防止や追い出し。

コウモリの通常使用において、これほど状況が違うにもかかわらず、どのような環境なら表示通りの効果が出るのかという具体的な基準が、製品表示にはなぜか示されていません。

効果がでる基準を示さずに、屋内と屋外という大きく環境が異なる場所で使うことを推奨する。そして効果や持続時間は、材質や使用環境により異なるという、なにやら責任回避のような注意書きを入れる。

いったいこれは、どういうことなのでしょうか?

せめて、どういった場所や環境ならコウモリが逃げ続ける効果がしっかり現れるのか、それはどういった実験で効果が認められたのか、そのくらいは記載するべきでしょう。

ズレ3:使用方法の実行不可能性(直接噴霧の限界)

メーカーの指示では「使用方法通り処理した場合に限る」とされ、コウモリがいる場所や侵入口への直接噴霧・設置を求めています。

  • メーカーの指示:コウモリがいる場所や侵入口に、直接噴霧・設置することを求める。
  • 実際の現場:コウモリは目視できない壁の中や隙間の奥深くに潜んでおり、正確な噴霧が困難。

正確な使用が前提でありながら、コウモリのねぐらの特殊性から、その完遂が難しい状況でどうやって効果を出すのかという、理解しがたい表記です。天井裏にいけばコウモリがぶら下がっているわけではないのです。

専門家として、この「製品の指示通り」という実行不可能性を考えると、市販の忌避剤という手段そのものが、現実の住宅構造やコウモリの動きと全く噛み合っていないと断言できます。

ちなみに、私は仕事柄、日本のコウモリ関係の論文はほとんど読んでいるはずです。しかし、コウモリの忌避剤について、その科学的ロジックと効果を認めた論文を、日本でひとつも見たことがありません。

この記事を書くにあたって、忌避剤メーカーがそういった論文を出しているか、調べて探しましたが、製品の効果の科学的根拠となる論文は、見当たりませんでした。もしあるようでしたら、私の確認不足ですので、ぜひ教えていただけますと幸いです。(メールはこちらまで

次章では、コウモリ匂い対策の科学的な限界について、その具体的な理由を海外論文などを見ながら、詳しく解説していきます。


長野県立科町の石壁にぶら下がるキクガシラコウモリの一次情報写真に、水色のAIワイヤーフレームと分析データが重ね合わされた解析イメージ
筆者が長野県立科町で撮影したキクガシラコウモリの一次情報写真をAIによる3Dワイヤーフレーム分析

コウモリ忌避剤が効かない科学的理由|動物行動学から見た「匂い対策」の限界

  • コウモリは強い匂いに対して短時間で感覚適応を起こし、刺激を無視するようになる。
  • 生存に直結する住処への執着は、ハッカなどの一時的な不快感よりも遥かに強力である。
  • エコーロケーションを主とする彼らにとって、嗅覚情報は行動を制限する決定打にならない。

第1章で触れた「期待と表示のズレ」をさらに深掘りするために、この章ではコウモリの生態と行動学の視点から、なぜ匂いによる対策が一時的な効果に留まってしまうのか、その科学的な根拠を整理します。

匂いに慣れる・捕食者臭でも逃げないという研究

まず、野生動物と匂いについての研究から考えてみます。

野生動物、とくに小型哺乳類では、捕食者の尿や体臭といった「怖い匂い」があっても、一度安全だと学習したねぐらや採餌場所では、その匂いを無視して利用を続けるケースが多数報告されています。

ドブネズミを対象にした野外実験では、キツネなど捕食者の臭いを付けた餌場でも、慣れた環境では採餌行動がほとんど抑制されないことが示されており、小型哺乳類は危険よりも「慣れた場所の安心感」が優先される様子が観察されています。(Dheilly ら「Wild Norway rats do not avoid predator scents…」2018)


さらに、洞窟性コウモリを対象にした行動実験では、キツネ糞臭の主成分である TMT やイタチ臭の成分 2‑PT といった捕食者由来の匂いを提示しても、ネズミでは見られる回避・恐怖反応は、コウモリではほとんど起こらないことが報告されています。(Driessens ら「Cave-dwelling bats do not avoid TMT and 2-PT」2010)

ハッカやメントールの刺激にすぐ慣れてしまう「感覚適応」のメカニズム

では、コウモリの忌避剤とコウモリはどうなのか考えてみます。

多くの忌避剤に使用されているハッカ油やメントールは、人間にとっても刺激的な匂いです。しかし、コウモリには「感覚適応」という能力が備わっています。

これは、特定の刺激を長時間受け続けると、脳がその情報を「重要ではない背景情報」として処理し、感じにくくさせる仕組みです。

私たちが香水をつけた直後は強く香りを感じるのに、数分後には気にならなくなるのと同じ現象が、コウモリの鼻でも起きています。

特にスプレーのように揮発性の高い成分は、噴霧直後こそ刺激になりますが、コウモリがその場に留まり続けると、数時間も経たないうちにその匂いは「ただそこにある背景」へと変わってしまいます。

生き残りをかけた住処への執着は「一時的な不快感」を上回る

ここで、野生動物にとっての「住処の価値」を冷静に考える必要があります。彼らにとって、外敵から身を守り、子育てを行い、冬眠を乗り切るための場所は、生存に直結する極めて優先順位の高いリソースです。

  • 市販の忌避剤が与える刺激:人間で言えば「少し匂いのきつい部屋」にいる程度の不快感。
  • 住処を失うリスク:文字通り、野生下での死に直結する致命的な損失。

この圧倒的な重みの差を考えれば、一時的に嫌な匂いがしたとしても、彼らが住み慣れた安全な場所を簡単に放棄するはずがありません。多少の不快感に耐えてでも、彼らは元の場所に戻ろうとする強い執着を見せます。

屋外でエコーロケーション(超音波)を優先するコウモリの感覚世界

夕暮れ時に建物のスタッコ仕上げの外壁に向かって飛行するコウモリが、口から広がる円弧状の青紫色超音波波紋を放ち、壁の凹凸から橙赤色の渦巻き状反響(エコー)を受け取っている、文字なしのエコーロケーション視覚化イメージ画像。

コウモリは、自ら発する超音波の反響を利用して周囲の状況を把握する「エコーロケーション」に特化した動物です。彼らにとって、空間を移動し、侵入口を見つけ、安全を確保するためのメインセンサーは「音(超音波)」であり、嗅覚は補助的な役割に過ぎません。

私たちが「匂いで壁を作れば入ってこないだろう」と考えるのは、視覚や嗅覚に頼る人間側の勝手なイメージです。

音で空間を立体的に捉えているコウモリにとって、空気中に漂う匂い成分は、通り道を物理的に塞ぐ壁にはなり得ません。

視覚や嗅覚が限定的なコウモリにとって「匂いの壁」が機能しない理由

コウモリは、障害物の有無を物理的な音の跳ね返りで判断します。匂いが充満している空間であっても、彼らのエコーロケーションが「ここには通り抜ける隙間がある」と教えてくれれば、彼らは何のためらいもなくその空間を飛び越えていきます。

つまり、私たちが期待している「匂いのバリア」という概念そのものが、彼らの感覚器官の特性から見て、物理的に成立していないのです。

この感覚の優先順位の差が、市販の忌避剤をいくら使っても、翌日にはまたコウモリが戻ってきてしまう根本的な理由の一つとなっています。

屋根裏でのコウモリスプレー(駆除・忌避剤)使用が危険な理由|パニックによる壁内死と二次被害リスク

  • 突然の噴霧はコウモリをパニックに陥れ、出口ではなく壁の奥深くへ追い込むリスクがある。
  • 壁の中で死んだ死骸は悪臭やダニの発生を招き、解体に伴う高額な修繕費に直結する。
  • 追い出しのつもりで行ったスプレーが事態を深刻化させ、衛生的な二次被害を引き起こす。

手軽に使えるコウモリ駆除スプレーや忌避スプレーは、一見すると便利で安全そうな道具に見えます。


しかし、屋根裏のような閉ざされた空間でこれらを使うことは、「あまり効かない」どころか、思わぬ深刻なトラブルを招く危険な行為になりかねません。ここでは、現場で実際に起きている「スプレーが生む最悪の結末」についてお話しします。

パニックを起こしたコウモリは「外」ではなく「壁の奥」に逃げる

動物行動の研究では、小さな哺乳類が強いストレスを受けると、開けた場所から壁沿い・隅・すき間へ逃げ込む傾向があることが知られています。


これは「走壁性(そうへきせい/thigmotaxis)」と呼ばれ、不安や恐怖を感じたときの典型的な行動パターンです。

ここで大事なのは、ハッカやミントの成分に対する反応は、単なる「好き嫌いのニオイの問題」ではない、という点です。

高濃度のハッカ油スプレーを浴びたコウモリは、「なんとなく嫌いな匂いだからちょっと離れる」というレベルではなく、「突然、顔や鼻に強烈な刺激が襲ってきた」ことでパニック状態になっている、と考える方が自然です。

ハッカ油は「いい香り」ではなく「強烈な刺激」になる

ハッカ油の主成分であるメントールは、人間でもおなじみの「スースーする成分」です。
しかし、高い濃度になると、このスースーはただの爽快感では済まず、鼻や目、喉の粘膜を強く刺激し、「しみる」「痛い」「息が苦しい」と感じるレベルの刺激になります。

コウモリの鼻や目、呼吸器も同じ哺乳類ですから、屋根裏のような密閉空間で高濃度のハッカ油スプレーを浴びせられれば、「良い香り」ではなく「突然の激しい刺激」として受け取ります。


つまりコウモリは「嫌いなニオイだから逃げる」のではなく、「強い痛みや違和感で一気にストレスが跳ね上がり、パニックになって逃げ出す」と考えた方が実態に近いのです。

パニックになったコウモリが向かう先

では、屋根裏に潜んでいるコウモリに、突然このような強い刺激のスプレーを噴霧するとどうなるでしょうか。


多くの方が期待するのは「嫌がって全部屋外に飛び出していく」姿かもしれませんが、現場で起きることはそうではありません。

先ほど触れたように、小型哺乳類は強いストレスを受けると、開けた場所ではなく、壁際やすき間に沿って動く「走壁性」という習性行動が強く出ます。


さらに、家屋に侵入するアブラコウモリのような種類は、もともと「建材のすき間や壁の中の狭い空間」をねぐらにする性質が非常に強い動物です。

そのため、パニック状態に陥ったコウモリが、全員が落ち着いて出口を探して外へ出ていくわけではありません。


パニックで危険から身を隠そうとする本能と、すき間を好む習性、そして走壁性が重なり、「より狭く、より暗く、より壁に密着できる場所」──例えば、壁の内部の空洞、断熱材の裏、梁とボードのわずかなすき間など──へと、いっそう深く潜り込んでしまうことがあるのです。

その結果、「スプレーをしたらいなくなったと思ったら、数日後に壁の中から異臭がし始めた」「室内の別の場所から物音や糞が出るようになった」といった、より厄介で深刻なトラブルにつながってしまうことになります。

建物内で逃げ出せずに死亡していたコウモリたちの画像・長野県伊那市で撮影
建物内で逃げ出せずに死亡していたコウモリたちの画像・長野県伊那市で撮影

建物内に残ったコウモリの死骸が引き起こす深刻な衛生被害

追い出しのつもりで行った行為が、最悪の結果を招く。壁の奥深くに残された死骸は、時間の経過とともに腐敗し、住環境に深刻な悪臭を放ち始めます。

さらに、野生動物の死骸にはダニやノミが群がります。コウモリという宿主を失ったこれらの吸血害虫は、新たな吸血源を求めて壁の隙間から居住スペースへと移動してきます。

スプレーで簡単に解決しようとした結果、家全体が衛生的な二次被害にさらされることになるのです。

コウモリの死骸からの害虫と悪臭の発生に伴う壁解体リスク

壁の中や断熱材の奥で、コウモリが死に腐敗が始まると、外から消臭剤を撒く程度では解決しません。根本的な解決には、壁を壊して、壁内部の死骸と糞を除去し、悪臭の元を取り除くことになります。

長野県箕輪町で撮影した、壁内部に住み着いたコウモリ駆除対策のため、内壁を壊している画像。大がかりな工事が必要になった。
長野県箕輪町で撮影した、壁内部に住み着いたコウモリ駆除対策のため、内壁を壊している画像。壁の内部にコウモリが入ってしまうと本当に大変な工事になる。壁を壊し、壁の中を清掃しないと悪臭が取れないのだ。
長野県箕輪町の住宅で、コウモリ侵入による悪臭問題を解決するために内壁を解体し、壁の内部に堆積した大量の糞やシミを確認・清掃している現場の一次情報写真
筆者が長野県箕輪町で対応した現場写真。部屋に漂うコウモリ由来の悪臭が消えないため、内壁を解体して壁内の清掃と糞の撤去を行っている様子

スプレーで追い出す場合は、リスクを承知の上で実施すべき

ここまで話してきましたように、スプレーでコウモリを天井裏や壁の中から追い出すことには、大きなリスクがあります。

自然に追い出す方法があるのに、スプレーでわざわざパニックになるような手法で追い出そうとするのですから、そのリスクを受け入れたうえで行う必要があるでしょう。

コウモリが家に住み着いていて、たまたま自然死してしまったなら、仕方がないでしょう。コウモリにも寿命がありますから。

しかし、追い出すつもりが、そのせいで建物内でコウモリが死んでしまったら?

もしあなたの家で、コウモリの駆除を行う業者が、忌避スプレーで追い出そうとしていたら、ぜひ聞いてください。

「スプレーをしたことで、壁の内部や人間の手が届かない場所へコウモリが逃げこんで死んでしまった場合、どんな対処方法を考えていますか?」と。

その答えをはっきり主張できて、解決方法を考えている業者であれば、それでもいいでしょう。ただし、壁の解体費用や復旧費用の工事代金は、誰が負担するのかを、よく確認すべきです。

世界の専門家が選ぶコウモリ対策の正解は物理的な対策

  • 世界の野生動物対策では、化学的な忌避剤ではなく物理的な遮断こそが標準である。
  • ワンウェイ・デバイスを用いた安全な退出と確実な封鎖が、再発を防ぐ唯一の正解。
  • 匂いによる誤魔化しを捨て、建物を物理的に止まれない仕組みに変えることが重要。
木製のデスクに置かれた、紺色のハードカバーのコウモリ対策専門書。表紙にはコウモリのイラストと技術的な図解があり、周囲には論文やビーカー、ノートパソコンが配置されている。専門的で信頼性の高い研究環境を表現したイメージ画像。

コウモリ対策で失敗を繰り返さないためには、視点を「匂いで追い払う」ことから、世界の専門家が共通して実践している「物理的に制御する」ことへと切り替える必要があります。

ここでは、欧米などの野生動物管理先進国で標準とされているエクスクルージョン(Exclusion:排除・遮断)の考え方を解説します。

海外の野生動物駆除対策マニュアルが化学的忌避剤(スプレー)を推奨しない理由

アメリカやヨーロッパの公的機関が出している野生動物対策マニュアルを紐解くと、コウモリ対策における「化学的な忌避剤(スプレーや薬剤)」の優先順位は極めて低く、多くの場合で推奨されていません。

その最大の理由は、第2章で述べたような感覚適応による効果の不確実性と、第3章で触れた死骸の発生リスクにあります。

プロの仕事に求められるのは「運が良ければいなくなる」というギャンブルではなく、「確実にそこから排除し、二度と入れないようにする」という再現性です。そのため、世界のスタンダードは、匂いという不確かな要素を排除し、物理的な手法へと集約されています。

コウモリの自然退去を促すワンウェイ・デバイス(一方通行の出口)の有効性

物理的な対策の要となるのが、ワンウェイ・デバイス(一方通行の出口)と呼ばれる専用の器具です。これは、コウモリが外へ出ることはできるが、外から戻ることはできない構造を持った仕掛けです。

長野県松本市の住宅でコウモリ用一方通行デバイスを軒下に取り付けている様子
松本市内のハウスメーカー施工住宅での事例。壁と軒天の隙間から大量のコウモリが出入りしていました。写真は、コウモリを外へ出し、再侵入を防ぐ「一方通行デバイス」を慎重に取り付けている場面です。

この手法の優れた点は、コウモリを無理やりスプレーでパニックに陥らせるのではなく、彼らの夕方の「採餌に出かける」という日常の行動を利用して、自発的な退去を促すことにあります。

これにより、壁の中で死骸を残すリスクを最小限に抑えながら、安全かつ確実に建物内からコウモリを排除することが可能になります。

外壁への寄り付き防止(ナイトルースト対策)を成功させる建物の工夫

侵入口を塞ぐ対策と並んで重要なのが、外壁や軒下で休む「ナイトルースト(夜間休憩)」への対策です。ここでも、スプレーによる飛来防止は一時的な気休めに過ぎません。

プロが考えるのは、コウモリが「止まりたい」と思う場所を、物理的に「止まれない場所」に作り替えることです。

コウモリは、足がかりが良く、外敵から身を隠せる隙間を好みます。その場所の形状や表面の滑らかさを工夫することで、彼らのエコーロケーションに「ここは休むのに適さない場所だ」と認識させるのです。

匂いで誤魔化さない物理的に止まれない仕組み作りの考え方

具体的には、壁の傾斜を調整したり、彼らが足をかけることができない滑らかな素材を導入したりする手法が取られます。これは、エコーロケーションの特性、コウモリの航空力学的な行動特性や、彼らの足や爪の構造を理解していればこそ可能な、非常に論理的なアプローチです。

匂いのように時間が経てば消えてしまうものではなく、建物そのものの構造として対策を組み込む。

この物理的なアプローチこそが、日本の住宅においてもナイトルーストや寄り付きによる汚れ・騒音問題を根本から解決する唯一の道となります。

上田市の住宅で外壁上部の7mmの隙間から出てくるアブラコウモリの暗視カメラ映像
長野県上田市で暗視カメラが捉えた決定的瞬間。住宅外壁のわずか7mm幅の通気口からアブラコウモリ2頭が這い出ています。

プロが実践するコウモリの駆除・追い出し・侵入防止手順

  • 侵入口の正確な特定から物理的な封鎖まで、専門的な3ステップの手順が不可欠。
  • 退出確認を徹底することで、建物内に死骸を残さない安全な解決が可能になる。

市販のスプレーや忌避剤の限界を理解したところで、次は具体的にどうすればコウモリの被害を完全に終わらせることができるのか、その実務的な手順を解説します。

本当のプロが現場で行っているのは、匂いによる追い払いではなく、建物を物理的に管理する3つのステップです。

侵入口の特定から物理的な封鎖(Exclusion)までの実務フロー

対策の第一歩は、コウモリがどこから出入りしているかを正確に突き止めることです。彼らはわずか1センチから2センチ程度の隙間があれば容易に侵入します。

侵入口の特定(調査)

外壁の隙間、瓦の重なり、通気口の網の破れなど、コウモリの体毛の油が付着した黒ずみ(ラビングマーク)や糞の堆積を頼りに、全てのルートを洗い出します。

主要な出入り口以外を全て封鎖

特定した隙間のうち、メインの出入り口と思われる場所以外を、金属ネットやシーリング材、板金などで物理的に封鎖します。ここで重要なのは、匂いではなく、通れない物理的な壁を作ることです。

安全な追い出しと最終封鎖

メインの出入り口に前述したワンウェイ・デバイスを設置します。数日間かけて全ての個体が自発的に外へ出るのを待ちます。

この際、最も神経を使うのが、建物内に取り残された個体がいないかの確認です。これを怠って全ての穴を塞いでしまうと、死骸の発生リスクを招きます。

日没時の飛び立ち調査や、天井裏の目視による最終点検を徹底し、内部が空になったことを確認して初めて、最後の穴を物理的に封鎖(Exclusion)します。

長い記事でしたが、結論として、忌避スプレーの使用はデメリットが大きく推奨できません。屋外での一時的な補助利用にとどめ、建物の構造を変える物理的な対策を中心に据えることが、真の解決策となります。

small attic window

コウモリ対策の新製品のお知らせ

現在、外壁の構造的対策はかわほりプリベントの独自技術を使った自社施工として一部地域に限って実施しています。今年も予約制となりますが、引き続き地域・棟数限定で受け付けていますので、長野県を中心とした営業エリアの方はご相談ください。

それとは別に、大手部材メーカー主導により全国の住宅で使えるコウモリ外壁ナイトルースト対策製品と、安全に追い出しが可能となる製品、これらの開発が進められており、2026年6月頃に販売開始、順次出荷予定です。業務用のプロ向け資材となり、発売予定は2種類(3製品)です。

私もこれらの製品に対し、コウモリの生態や飛行メカニズム、エコーロケーションの専門的知見から共同開発に協力しています。

1.コウモリが住宅の外壁、ベランダ、玄関などにぶら下がることへの対策製品

住宅のコウモリのナイトルースト、壁どまり対策の製品です。特にシナントロープ化したアブラコウモリなどは、外壁の凹凸をエコーロケーションでキャッチして、そこに爪をひっかけて壁にくっつくようにぶら下がる習性があります。

こういった被害を減らすために開発された製品です。外壁用シートと玄関など入隅用(いりすみよう)接続部材の2種類が発売予定です。

2.コウモリの安全な追い出しを可能にする製品

日本においてコウモリの追い出しと言えば、忌避スプレーが主流でした。これには、パニックになったコウモリが天井裏の隙間や壁の中に逃げ込んで死んでしまい、悪臭や害虫発生の事例がありました。

このスプレーによる追い出しは、日本独特の手法であり、世界の基準とは大きくかけ離れたものでした。

そこで、コウモリが安全に外に出ていけるように、そして入れないようにする、日本のアブラコウモリ専用に設計した追い出し専用資材です。1種類が発売予定です。

詳しい記事はこちら

コウモリの関連記事について

この記事で参考になるような解説記事をいくつか書いています。興味のある方はご覧になってください。

かわほりプリベントが、あなたのコウモリ被害、解決します。

参考文献

独立行政法人国民生活センター(2003).家庭用忌避剤の効能と安全性-不快害虫用を中心として-.
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20030606_2.html

Dheilly, N. M., et al. (2018). Wild Norway rats do not avoid predator scents when collecting food in a familiar habitat. Scientific Reports, 8, 12265.
https://www.nature.com/articles/s41598-018-27054-4

Apfelbach, R., et al. (2005). The effects of predator odors in mammalian prey species: A review of field and laboratory studies. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 29(8), 1123–1144.​

Driessens, T., et al. (2010). Cave-dwelling bats do not avoid TMT and 2-PT. Journal of Experimental Biology, 213(14), 2453–2459.
https://journals.biologists.com/jeb/article/213/14/2453/9849/Cave-dwelling-bats-do-not-avoid-TMT-and-2-PT


EFSA PPR Panel (EFSA Panel on Plant Protection Products and their Residues). (2019). Scientific statement on the coverage of bats by the current pesticide risk assessment for birds and mammals. EFSA Journal, 17(7), e05758.​

Lahr, J., et al. (2021). Assessing the risks to bats from plant protection products. Environmental Sciences Europe, 33, 99.​


ICWDM (2020). Bat Damage Prevention and Control Methods. Internet Center for Wildlife Damage Management.
https://icwdm.org/species/other-mammals/bats/bat-damage-prevention-and-control-methods/

Minnesota Department of Natural Resources. (2024). Permanently Excluding Unwanted Bats.
https://www.dnr.state.mn.us/livingwith_wildlife/bats/exclusion.html

National Wildlife Control Training Program (NWCTP). (2020). Bats, General.
https://wildlifecontroltraining.com/wildlife-species/bats-general/

Alabama Department of Conservation and Natural Resources. (2020). Bats. Outdoor Alabama.
https://www.outdooralabama.com/wildlife/bats

コウモリの忌避・追い出しFAQ

Q
コウモリ忌避スプレーを使えば、コウモリを完全に追い出せますか?
A

一時的な効果にとどまります。最新の動物行動学の研究において、コウモリやネズミは安全と学習した場所(ねぐら)からは、嫌な匂いを嗅いでも簡単には逃げ出さない例が実証されています。

根本的な解決には、一方通行デバイスによる「排除」と侵入口の「封鎖」が必要です。

Q
屋根裏や壁の隙間に向けて忌避スプレーを噴霧しても問題ありませんか?
A

実務上推奨されません。スプレーを浴びてパニックになったコウモリが、壁や断熱材の奥深くへ逃げ込んで死亡するリスクがあります。

死骸による害虫や寄生虫(ダニ・ノミ)の発生に加え、壁を解体して撤去するための高額な修繕費用を招く二次被害につながります。

駆除スプレーで追い出し作業を行う場合は、コウモリが天井裏や壁の内部に逃げ込んでしまったらどうするのか、その対処方法を確認してから実施してください。

Q
キツネやイタチなど、天敵の匂い(捕食者臭)を使えば本能的に逃げませんか?
A

逃げません。ヨーロッパの洞窟性コウモリを対象とした実験でも、捕食者由来の匂いに対して顕著な恐怖反応や回避行動は確認されませんでした。

「匂いさえ撒けば本能的に出口へ逃げる」という認識は、最新の科学的エビデンスにおいてすでに否定されています。

Q
ナフタリンなどのより強力な化学忌避剤なら効果はありますか?
A

限定的かつ一時的です。歴史的にコウモリ用忌避剤として扱われたナフタリンでさえ、世界の専門家マニュアルでは「狭い密閉空間でのみ一時的に機能する補助手段」と評価されています。

通気性のある日本の住宅構造では濃度が維持できず、人体やペットへの健康リスクも懸念されます。

Q
夜間だけ外壁にやってくるコウモリ(ナイトルースト)への対策はどうすればよいですか?
A

スプレーではなく、外壁の「形(構造)」を変える必要があります。コウモリは重力を利用した特殊な足の構造を持ち、わずか1ミリの段差に爪を掛けてぶら下がります。

超音波の反射特性と飛行力学を計算し、そもそも着地できない構造へと外壁を改修することが最も合理的な対策です。

Q
世界の専門家が推奨するコウモリ対策の「標準手順」とは何ですか?
A

「一方通行デバイスによる薬剤を使わない安全な追い出し(排除)」と「すべての侵入口の完全な封鎖」です。

これがコウモリを殺傷せず、再侵入を永久に防ぐための唯一の方法として推奨されています。

この記事の執筆者・監修者

かわほりプリベント代表 山岸淳一

山岸 淳一 (Junichi Yamagishi)

かわほりプリベント代表。長野県を拠点に、コウモリや野生動物の研究をしながら、駆除対策の依頼には直接現場で対応している。動物と人間との間に生じた曖昧な境界線を整えることが使命。研究の専門領域は、長野県に生息するコウモリの生態研究(特に上高地や乗鞍高原など山岳地帯の希少種コウモリ)と、コウモリや野生生物の住宅や建築物への侵入メカニズムの解析研究。ハウスメーカー住宅から大学病院、重要文化財、古墳まで駆除対策の実績多数。SBC信越放送ラジオ「かわほり先生の生き物万歳」(毎月第4木曜)にレギュラー出演中。三度の飯よりコウモリが好き。

かわほりプリベントが、あなたのコウモリ被害、解決します。

コウモリ記事一覧

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長野県:中信地域(松本・安曇野・木曽など)

松本市塩尻市安曇野市大町市、池田町、松川村、白馬村、小谷村、麻績村、生坂村、山形村、朝日村、筑北村、木曽町、上松町、南木曽町、木祖村、王滝村、大桑村

長野県:南信地域(諏訪・伊那・飯田など)

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長野県:東信地域(上田・佐久・軽井沢など)

上田市東御市佐久市小諸市、坂城町、青木村、長和町、軽井沢町、御代田町、立科町、小海町、川上村、南牧村、南相木村、北相木村、佐久穂町

長野県:北信地域(長野・須坂・中野など)

長野市千曲市須坂市中野市飯山市、信濃町、小川村、飯綱町、山ノ内町、木島平村、野沢温泉村、栄村、高山村

▼ 新潟県・山梨県・岐阜県

新潟県:妙高市、上越市、糸魚川市、柏崎市、十日町市、長岡市、小千谷市

山梨県:北杜市、甲府市、韮崎市、甲斐市、笛吹市

岐阜県:飛騨市、高山市