コウモリ忌避スプレーの効果はあるのか?
専門家が科学と現場から解説
結論:コウモリ駆除に忌避スプレーはおすすめできません。
ご自宅のコウモリ被害に、市販の忌避スプレーで対処しようとお考えではありませんか?多くの方が手軽だからと選びがちです。ですが、専門家として長年の現場経験と科学的知見に基づき、コウモリ忌避スプレーの使用はおすすめできません。それどころか、かえって事態を悪化させるリスクさえあります。
なぜ忌避スプレーをおすすめできないのか?
- 理由1:持続効果が非常に短い
効果は3〜6時間ほどしか続かず、頻繁な使用は建物を傷めるリスクがあります。 - 理由2:コウモリが建物内で死ぬおそれがある
パニックになったコウモリが壁の奥へ逃げ込み、中で死んで二次被害(悪臭・害虫)を招きます。 - 理由3:追い出せても、また戻ってくる
侵入口を塞がない限り、効果が切れれば再侵入されるため、根本的な解決にはなりません。
コウモリ忌避スプレーの効果と問題点
僕は長野県でコウモリ対策の仕事をしているのですが、お客様からこんな質問を本当によく受けます。
「ホームセンターで売ってるスプレーって、コウモリに効くんですか?」
「コウモリ忌避スプレー」や「コウモリ駆除スプレー」は、ネットやドラッグストアで手軽に手に入ります。多くの方がまず自分で試してみるようです。

コウモリ忌避スプレー製品のパッケージ写真
ですが、実際に僕のところに相談に来られる方のほとんどは、スプレーを使ってみてこう言います。 「スプレーしてみたけど、全然効果がなくて…」
中には、「もう何十本も、何万円分も買っているんだよ〜」と、笑えない話をしてくださるお客様もいらっしゃいます。
一見手軽に見えるスプレーですが、正しく理解しないまま使うと、かえって被害が悪化したり、取り返しのつかない事態になるケースがあるんです。
この記事では、「コウモリスプレーは本当に効くのか?」という疑問に、成分分析、行動学的な視点、そして国際的な保護団体の見解まで含めて、科学的かつ現場に即した視点で解説していきます。
コウモリスプレーの成分と効果を分析する
まずは、市販されているコウモリ忌避スプレーがどんな中身なのかを見ていきましょう。
今回取り上げるのは、ホームセンターなどで最も手に入りやすい製品の一つ、「イカリ消毒 スーパーコウモリジェット(忌避スプレー)」です。
僕は、この製品のSDS(製品安全データシート)を取り寄せ、成分や効果を詳しく調べました。SDSとは、製品に含まれる成分や安全性、取扱上の注意点が記載された、いわば「成分の公式説明書」です。
市販スプレーの主要成分
主な成分は以下の通りです。
- ハッカ油(ミントオイル):コウモリが嫌がる香り成分
- イソプロパノール(IPA):アルコール系の溶剤
- 液化石油ガス(LPG)・炭酸ガス:スプレーを噴射するためのガス
つまり、このスプレーは「ハッカの強い匂いで、コウモリにとって嫌な環境をつくる」ことを目的に作られているわけですね。

コウモリ忌避スプレーのSDS情報(製品安全データシート)
実際、日本で売られているコウモリ対策スプレーの多くは、成分がほとんど同じです。
※ちなみに、最近は某メーカーからメントールを配合した新製品が出るという話も耳にしましたが、発売前のため、まだ実験はできておらず無評価とします。
⚠️ 「ハッカのコウモリ忌避剤は、どれも有効成分は一緒」
インターネット上には様々なコウモリ忌避スプレーのレビューがありますが、結論として、どの製品も『ハッカを使った短時間の忌避』という点で本質的に共通していると言えます。成分や効果、狙いも概ね同じであるため、この記事では特定の商品に偏ることなく、ハッカ油を主成分とした全てのコウモリスプレーについて、効果やリスクを総合的に解説していきます。
ハッカ油は本当に効くのか?
先ほどのSDSデータからもわかる通り、市販のコウモリスプレーの主な有効成分は、ハッカ油(ミントオイル)です。
コウモリがこの香りを嫌う、というのが製品の根拠になっていますが、僕自身の現場経験から言うと──
「コウモリは、ハッカだけが特別に嫌いというわけではない」
実際、コウモリはハッカに限らず、強い刺激臭全般に対して警戒反応を示す傾向があります。これは哺乳類全体に共通する特性で、例えば人間でも「アンモニア」や「シンナー」のような匂いを避けるのと同じです。
❗なぜ、どのスプレーもハッカなのか?
ではなぜ、市販のコウモリスプレーは「ハッカ油」に限定されているのでしょうか?
答えは単純で、人間の住環境でも使える“安全性の高さ”があるからです。
- 人体やペットへの影響が少ない
- 自然由来で印象が良い(ミント系)
つまり、「数ある刺激臭成分の中で、住宅で使えるレベルの“最もマイルドなもの”として採用されている」というのが実態なんです。
ハッカの効果はなぜ持続しないのか?
⚠️ ハッカの効果は持続しない。 なぜなら、ハッカの主成分であるメントールは非常に揮発性が高く、空気中にすぐに拡散してしまうから。
特に屋外や換気の良い場所では、短時間で濃度が下がり、忌避効果が薄れてしまいます。
つまり、時間が経てばすぐに匂いが薄れてしまうという性質があるんです。
これが「コウモリにハッカの臭いをかけると一時的に逃げる。てもすぐ戻ってくる」最大の理由です。
外壁のコウモリ被害──ナイトルーストには効かない理由
では、市販のコウモリ忌避スプレーは、外壁にぶら下がって休んでいるコウモリ(ナイトルースト)に効果があるでしょうか?僕の答えは「ほとんど効果が期待できません」です。

長野県伊那市の住宅で、アブラコウモリのナイトルーストが繰り返された結果、糞尿が外壁を傷め、塗装が剥がれ始めている。

住宅外壁に取り付けられたエアコン室外機の上に、アブラコウモリの糞が多数落ちて汚れている様子(松本市で撮影)。
スプレーが効かない理由は、製品ラベルに小さく書かれている“効果の持続時間”を見れば明らかです。
スプレーの持続時間はコウモリの活動時間には全然足りない
「スーパーコウモリジェット」のラベルには、「効果は3〜6時間持続します」と書かれています。コウモリが夜間に活動する時間は10〜12時間ほど。スプレーの効果は一晩さえカバーできないということになります。

コウモリ忌避スプレーの効果時間を示すラベルに3~6時間と表記されていることがわかる写真
頻繁に使えば外壁が傷むリスクも
「じゃあ毎晩何回もスプレーすればいいのでは?」と思われるかもしれませんが、それにも大きなリスクがあります。製品ラベルには、「樹脂・漆喰・石材などに使用すると、変色や変形の恐れがあります」と記載されています。頻繁に使用すると、外壁の素材によっては深刻なダメージを受ける可能性があるのです。
まとめ:外壁に使うなら“効果”より“リスク”が上回る
- スプレーの持続時間は、コウモリの行動時間よりも短い
- 頻繁に使えば、外壁にダメージが出るリスクが高い
つまり、「ナイトルースト」への使用は、効果よりもリスクが大きいんです。
コウモリ駆除で後悔しないための完全ガイド
業者に依頼する前に、あなたが知っておくべき情報のすべてを、200件以上のコウモリ駆除実績をもつ長野県のプロが、一つのページにまとめました。 長野県の方も、他県の方も、駆除業者に依頼するときの参考にしてください。
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- ✔ 専門家による、よくある質問への回答
建物内でスプレーで追い出そうとすると、逆にリスクがある
「小屋裏や壁の中のコウモリは、スプレーで追い出せばいいんじゃないの?」
そう考える方は少なくありません。
たしかに、屋根裏や天井の隙間などにスプレーを吹きかければ、一時的にコウモリが飛び出してくることはあります。 その様子を見て、「追い出し成功!駆除完了!」と安心してしまう方もいるでしょう。
ですが、本当に全てのコウモリが建物の外に出て行ったのでしょうか?
🦇 そう簡単にはいきませんよ。現実は、そんなに都合よくはいきません。
強い刺激臭に驚いたコウモリは、本能的に“最も近くて暗く、狭い安全な場所”へ逃げ込もうとします。
その結果──
- 壁の中の断熱材の隙間へ
- 天井裏の奥の奥へ
- 一部のコウモリはその場で固まり、動けなくなる

長野県安曇野市の住宅1階軒天内部で撮影されたアブラコウモリたちの行動記録。赤外線カメラにより、複数の個体が壁面にぶら下がりつつ、左右上下に活発に移動する様子が確認できる(2024年5月撮影)。
といった行動が起きます。これらは、実際の現場で何度も確認してきたことです。
動物行動学から見た“逃避行動”の予測不能性
コウモリの行動には、根拠がある考察です。海外の動物行動学の研究でも、次のように報告されています。
論文1.「危険に直面した動物は、個々に異なる方向へ逃げる傾向がある」(Dill & Houtman, 1989)
論文2.「コウモリは捕食リスクを感じた際、活動を減少させるとともに、開けた場所を避けて樹林帯や狭い通路などに逃げ込む傾向がある」(Baxter et al. 2006)。
これらの研究論文からわかることは、予期しない強い臭いを伴う危険がコウモリに迫った場合、その後の行動は、人間には予測できないということです。
安全だと感じる近くの隙間や断熱材の中に逃げ込むコウモリ、スプレーから遠ざかるように奥へ奥へと逃げ込むコウモリ、パニックになり飛び回るコウモリ、体調が悪くなり動けないコウモリ……。どの可能性もあります。
つまり、人間が「外に逃げてくれるはず」と期待しても、コウモリにとっては「とにかく身近な避難先に隠れる」方が自然な反応なんです。コウモリスプレーをすれば、建物内からコウモリが全部出ていくなんて、人間の勝手な思い込みにすぎません。
逃避行動をシミュレーションしてみると
下の図は、コウモリが忌避スプレーに驚いたときの逃避行動をシミュレーションしたものです。 パニック状態になったコウモリたちが、それぞれ異なる方向(複数のルート)へ逃げていく様子が描かれています。

コウモリが危険に直面した際の逃避行動シミュレーション図。建物内で強い刺激を受けたコウモリがどの方向へ向かうのかをシミュレーションしています。
このように、コウモリは一斉に外へ逃げるとは限らず、人間が想定していない方向に入り込む可能性が高いことがよくわかります。
スプレーによるコウモリの建物内での死亡リスク
コウモリは、飛ぶためにとても繊細な身体構造をしています。 特に、翼膜(よくまく)と呼ばれる羽の部分は非常に薄く、乾燥していなければうまく飛ぶことができません。
ところが──
市販のコウモリ忌避スプレーは、アルコール系の液体やガスを勢いよく噴射するタイプが多く、コウモリの身体に直接かかると、次のような影響を与えるおそれがあります。
スプレーがコウモリに与える影響
- 翼が濡れて重くなり、飛べなくなる
- ゴミやホコリが付着して、さらに動きが鈍くなる
- アルコールが揮発することで体温が下がり、低体温に陥る可能性がある
こうなると、コウモリは安全な場所へ逃げることもできず、その場で動けなくなり、建物の中で衰弱・死亡してしまうケースがあるのです。

建物内で逃げ出せずに死亡していたコウモリたちの画像・長野県伊那市で撮影
建物内で死んだコウモリの二次被害
建物内で死んだコウモリは、最終的には腐敗するか、あるいは乾燥してミイラ化します。 しかしそれで終わりではありません。
- 腐敗すればウジやハエが発生する可能性
- ミイラ化すればカツオブシムシや蛾などの害虫が繁殖する可能性
- 付着していたダニや寄生虫が人間へ移動してしまう恐れ
特にコウモリに寄生している吸血性のダニやノミは、吸血先を失うと人間やペットに移動することがあり、刺され被害やかゆみトラブルにつながります。
死骸の除去は非常に困難
コウモリが壁の中で死んでしまった場合、位置が特定できたとしても、壁を壊さないと取り出せないことがほとんどです。
内壁や断熱材の奥に入り込んだ死骸を取り除くには、
- 部分的に壁や天井を解体
- 断熱材を一部撤去
- その後に再施工・修繕が必要
という大がかりな作業が発生します。費用も高額になるケースが少なくありません。

長野県箕輪町で撮影した、壁内部に住み着いたコウモリ駆除対策のため、内壁を壊している画像。大がかりな工事が必要になった。
一時的に追い出せても、また戻ってくるのがコウモリ
ここまで読んでくださった方には、もうお分かりかと思います。
市販のコウモリ忌避スプレーは、一時的に追い払うことはできても、根本的な解決にはなりません。
なぜなら、スプレーの効果は3〜6時間。 これは製品ラベルにも明記されている公式な効果時間です。
つまり── 夜になれば、また戻ってきてしまう。 という状況が普通に起こり得るわけです。
侵入口がそのままでは意味がない
コウモリは、一度「ここは安全だ」と学習した場所には何度でも戻ってきます。 スプレーで一時的に匂いをつけても、侵入口が開いたままであれば、再侵入は時間の問題です。
実際、多くのご相談者がこうおっしゃいます。 「昼間スプレーしたら出て行ったんですが、また夜に戻ってきたみたいで…」
これは当然のこと。 入口が空いていて、効果が切れている──それでは戻ってこないほうが不思議です。
再発防止に必要なこと
本当にコウモリ被害を防ぐには、以下の2つが欠かせません。
- 一方通行デバイスを使って、コウモリに自発的に出て行ってもらう
- 出て行った後、すぐに侵入口を物理的に塞ぐ

長野県松本市で、コウモリを安全に追い出すため、一方通行デバイスを設置している画像。出口デバイスはコウモリの駆除と再侵入を防ぐために重要です。
この「出す→塞ぐ」という順序と精度が、再発防止の鍵です。
スプレーには、こうした構造的な解決力が一切ないため、どうしても「やってもやっても戻ってくる」という悪循環に陥ってしまいます。
まとめ:スプレーは“その場しのぎ”でしかない
- スプレーの効果が切れれば、コウモリはまた戻ってくる
- 侵入口が空いたままでは、いくらスプレーしても意味がない
- 出す→塞ぐの順番を徹底することが、根本的な解決につながる
長野県民のためのコウモリ対策【決定版】
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長野県向けの対策を詳しく見る忌避剤使用に対する国際的なコウモリ保護団体の見解
世界的に見ても「忌避スプレー」は推奨されていません
コウモリ駆除に関しては、海外でも多くの研究・議論が行われています。 その中で、忌避スプレーや忌避剤の使用については、どの団体も慎重な姿勢を示しています。
ここでは、世界的に権威ある3つの保護団体の見解を紹介します。
1. Bat Conservation International (BCI)[アメリカ]
アメリカ・テキサス州に本部を持つ、世界的に有名なコウモリ保護団体です。 BCIでは次のような方針を明示しています:
- 忌避剤の使用は推奨しない
- コウモリにストレスやダメージを与える恐れがある
- 代わりに「出口を作って出て行かせ、戻れないようにする」方法を推奨
つまり、忌避よりも“建物からの安全な排除”が重要としています。
2. Bat Conservation Trust (BCT)[イギリス]
イギリスの代表的なコウモリ保護団体。法律との連携にも力を入れています。
- 忌避剤の使用については「避けるべき手段」と位置づけ
- コウモリにストレスを与えず、法的にも安全な排除方法(出口・バリア)を推奨
- 「追い出し→封鎖」の順番を守ることが基本方針
イギリスでは、許可なくコウモリを追い出す行為自体が違法となるケースもあり、非常に慎重な立場です。
3. Florida Fish and Wildlife Conservation Commission (FWC)[アメリカ・フロリダ州]
フロリダ州の自然保護委員会で、野生動物保護に関する法制度とガイドラインを整備しています。
- 被害が出ている場合でも専門家の助言を受けることを強く推奨
- 忌避スプレーの使用は原則として非推奨
- コウモリの保護と人間の生活環境の両立を目指し、物理的な排除(出口・バリア)を優先
世界中で共通する考え方
どの団体も共通して主張しているのは、次の3点です:
- 忌避スプレーは安全でも確実でもない
- コウモリに余計なストレスを与えるリスクがある
- 一方通行デバイス+侵入口封鎖による“再侵入させない”対策こそが基本
つまり、「スプレーで追い出す」という行為は、国際的な保護基準から見ても避けるべき方法とされているのです。
意外と知らない?海外のコウモリ忌避剤事情と、その限界
なぜ、ただ追い出すだけでは解決しないのか
これまで、日本の市販スプレーについて解説してきましたが、海外ではどのような忌避剤が使われているのでしょうか?実は、海外でも様々なコウモリ忌避剤が使われていますが、そのほとんどは一時的な効果に過ぎません。なぜ、それだけでは根本的な解決にならないのか、詳しく見ていきましょう。
海外で一般的に使われる代表的な忌避剤の種類と特徴・限界
ナフタリン系忌避剤
いわゆる防虫剤として知られるナフタリンを、屋内の密閉空間に散布し、蒸発した臭いでコウモリを一時的にいぶり出します。1000立方フィートあたり2.5~5ポンド程度を使うと効果があると報告されていますが、臭いが薄まると再び戻ってくるため、持続的な効果は期待できません。
天然ハーブ系の袋状忌避剤とスプレータイプ
ペパーミントやスペアミントなどのハーブオイルを染み込ませた小袋を屋根裏などに吊るしたり、ミント類や唐辛子エキスなどを配合したスプレーを屋根裏や軒下に直接噴霧して、刺激臭でコウモリを追い払うタイプです。家庭で手軽に使える点が魅力なんでしょうね。効果については、成分が同じようなものなので、日本のスプレーと効果も同じでしょう。
泡状のエアゾール忌避剤
シナモンやミントを配合した発泡ミストを噴射し、香りと発泡の両方でコウモリを刺激して追い出します。主に物理的排除作業の前段階として使われることがあるようです。海外でも東南アジアの一部の地域で販売があるとのことです。
海外の専門家や関連機関の見解では
これらの忌避剤はいずれも「臭いによる一時的な嫌悪感」を利用するもので、コウモリが完全にいなくなる保証はありません。海外の専門家や関連機関の見解では、忌避剤などは長期的には効果が不十分だと指摘しています。海外論文を探しても忌避スプレーの科学的な試験データは少ないのが現状です。総じて、忌避剤は補助的な手段として位置づけられ、幼獣がいる場合の一時しのぎや、物理的対策と組み合わせて用いることが望ましいとされています。
本当に効果的な対策は、「出す→塞ぐ」の順番
ここまで述べてきたとおり、コウモリ忌避スプレーは一時的な効果しかなく、リスクも大きい方法です。
では、どうすれば安全かつ確実にコウモリを追い出し、再侵入を防げるのでしょうか?
その答えが、「出口デバイスの設置」と「物理的な封鎖」です。
一方通行デバイスで、コウモリを自然に出す
「一方通行デバイス(ワンウェイ出口)」とは、コウモリが中からは出られるが、外からは戻れない構造をもった出口のこと。
これを侵入口に設置することで、コウモリは自分のタイミングで出て行くことができます。
スプレーのようにパニックを起こさせないため、安全かつ確実に建物から出てもらうことができるのです。
出たあとは、侵入口をしっかり封鎖
全てのコウモリが出たことを確認したら、侵入口を物理的に封鎖します。 ここをきちんとやらないと、いくら追い出してもまた戻ってきます。
使う素材や封鎖方法は、建物の構造やコウモリの種類によって変える必要があるため、専門家が個別に現場を見て、判断・施工することが大切です。

岐阜県高山市にて、古民家の外壁隙間に潜むコウモリの有無を、マイクロスコープを用いて丁寧に調査している様子。
日本にも多種多様なコウモリがいる
日本には約35種のコウモリが知られており、長野県ではそのうち19種類が確認されています。
- 種類によって体の大きさも飛び方も違う
- 侵入経路やねぐらの選び方も異なる
そのため、一方通行デバイスのサイズや設置位置、封鎖のタイミングも種ごとに最適化する必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1: コウモリ忌避スプレーは本当に効果がないのでしょうか?
A1: いいえ、一時的な忌避効果はありますが、その効果はごく短時間(3~6時間程度)しか持続しません。コウモリはすぐに戻ってくるため、根本的な解決にはなりません。むしろ、使用にはいくつかのリスクが伴います。
Q2: 市販のコウモリ忌避スプレーを使うと、どのようなリスクがありますか?
A2: 主なリスクは3つあります。
1. 建物へのダメージ: 頻繁な使用で外壁や素材を傷める可能性があります。
2. コウモリの死亡リスク: スプレーの刺激でコウモリが壁の奥や断熱材に逃げ込み、そのまま出られずに死んでしまうことがあります。
3. 二次被害: 死んだコウモリの死骸が腐敗して異臭や害虫(ウジ、ハエ、カツオブシムシなど)、ダニ(人間やペットに寄生することも)を発生させる可能性があります。
Q3: コウモリが建物内で死んでしまった場合、どうなりますか?
A3: 建物内で死んだコウモリは腐敗したりミイラ化したりし、異臭や害虫、ダニの原因となります。壁の奥などで死亡した場合、死骸の除去は非常に困難で、壁の解体など大がかりな修繕工事が必要になるケースがほとんどです。
Q4: コウモリ駆除で最も効果的で安全な方法は何ですか?
A4: 最も効果的で安全な方法は、「一方通行デバイス(ワンウェイ出口)の設置」と「侵入口の物理的な封鎖」を組み合わせる方法です。コウモリに自発的に建物から出てもらい、その後に再び侵入できないよう、侵入口を完全に塞ぎます。
Q5: 国際的なコウモリ保護団体も忌避スプレーの使用を推奨していませんか?
A5: はい、世界的に権威のある主要なコウモリ保護団体(Bat Conservation International、Bat Conservation Trustなど)は、忌避スプレーの使用を推奨していません。コウモリにストレスを与えるリスクや効果の不確実性から、安全な追い出しと侵入口の封鎖による物理的な対策を基本方針としています。
Q6: コウモリ被害が再発しないためのポイントは何ですか?
A6: 再発防止には、「コウモリを建物から完全に出すこと」と、「すべての侵入口を徹底的に塞ぐこと」の2つが不可欠です。スプレーのように一時的な対策では根本的な解決にはならず、必ず再侵入のリスクが残ります。
Q7: コウモリ対策で専門家はどんなことをしてくれますか?
A7: 専門家は、コウモリの種類や建物の構造を正確に調査し、適切な一方通行デバイスの設置や、コウモリの再侵入を防ぐための確実な封鎖工事を行います。お客様の状況に合わせた最適な対策を提案し、責任を持って施工することで、根本的な解決を目指します。
最終結論:コウモリ駆除にスプレーはおすすめしません
ここまで紹介してきたように、コウモリ忌避スプレーには以下のような大きな問題点があります:
- 効果が3~6時間と極めて短い
- 頻繁な使用で外壁や健康リスクも
- 強い刺激でコウモリが壁の中に逃げ込み死亡するリスク
- 死骸による異臭・害虫・ダニ被害
- 再侵入を防ぐ力がまったくない
一見、手軽に使えるスプレーですが、本当の意味での解決にはならないどころか、取り返しのつかない事態を招く可能性すらあるというのが、現場で対応している僕の実感です。
「住まい」は、家族が長く暮らす場所だから
コウモリが壁の中で死んでしまったら、除去は困難です。
修繕や清掃に大きな費用と時間がかかり、家族の健康にも影響します。
その場しのぎの方法ではなく、将来まで安心できる対応をしてほしい──
僕はそう願っています。
安全で確実な方法を選ぶために
スプレーに代わる、安全で確実な対策は以下の通りです。
- 無理に追い出さず、自然に外へ誘導する一方通行デバイス
- 専門家による再侵入させない封鎖工事
- コウモリの種類や建物構造に合わせた現場判断と責任施工
こうした方法こそが、スプレーにはない「根本解決力」を持っています。
参考文献・引用元
引用論文
-
Dill, L. M., & Houtman, R. (1989). The influence of distance to refuge on flight initiation distance in the gray squirrel (Sciurus carolinensis). Canadian Journal of Zoology.
DOI: 10.1139/z89-033 -
Baxter, D. J. M., Psyllakis, J. M., Gillingham, M. P., & O’Brien, E. L. (2006). Behavioural Response of Bats to Perceived Predation Risk While Foraging. Ethology, 112(10), 977-983.
DOI: 10.1111/j.1439-0310.2006.01249.x
関連団体・公式サイト
-
Bat Conservation International (BCI)
公式サイト: https://www.batcon.org -
Bat Conservation Trust (BCT)
公式サイト: https://www.bats.org.uk -
Florida Fish and Wildlife Conservation Commission (FWC)
公式サイト: https://myfwc.com
お困りの方は、ご相談ください
もし、今お住まいの家で「コウモリかもしれない」「スプレーで効かなかった」などのお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。
長野県内を中心に、山梨県や岐阜県の一部で、現地調査・提案・施工まで一貫して対応しています。
大切な住まいを、コウモリ被害から本当に守るために── 必要なのは「スプレーではない選択肢」です。
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