こんにちは。長野県でコウモリの生態調査と野生生物の建築物侵入メカニズムを専門に研究している、かわほりプリベント代表の山岸淳一です。
さて今回の記事では、コウモリに寄生するダニやトコジラミ、ノミなど、「コウモリのいる家に現れる虫たち」を取り上げます。
「家にコウモリが住み着いてから、謎の虫刺されが出るようになった」
「部屋で見慣れない虫を見つけて、不安になっている」
そんな相談を受けることがよくあります。
コウモリに関係する虫は、情報が少ないですし、見た目も症状も似ていて、正体を取り違えやすいのが厄介です。
この記事では、コウモリに寄生するダニや虫のうち、人間を吸血する特に注意したい虫を、現場の観察と文献の両方をもとに解説していきます。それぞれ実際に私が現場で撮影した写真添付しましたので、比較して参考にしていただければと思います。
なお、この記事内で掲載している文章や写真はすべて、かわほりプリベント代表・山岸淳一が現場で撮影したものであり、著作権を保有しております。医療・教育関係者の方に限り、目的によって無償かつ改変自由での特例利用が可能です。使用ルールについては、著作権ポリシーをご覧ください。
この記事でわかる重要なポイント
- 人への吸血被害を起こす2大要因: 家屋のコウモリ由来で人間を刺す寄生虫は、主に「コウモリマルヒメダニ」と「コウモリトコジラミ」の2種類である。
- 特徴的な症状の違い: コウモリマルヒメダニは「かさぶたを伴う激しい痒み」、コウモリトコジラミは「1cmほどの赤い腫れと強い痒み」を引き起こすことがある。
- 宿主不在でも半年〜1年以上生存:コウモリマルヒメダニやコウモリトコジラミは飢餓に強く、コウモリを追い出した後も天井裏や壁間で長期生存し、新たな吸血源として人間を襲うリスクがある。
- 正しい駆除の原則:コウモリ由来のダニやトコジラミによる虫刺され被害を根絶するには、「コウモリの追い出し」と、「殺虫剤によるダニやトコジラミの駆除」が不可欠である。
まず確認|家で見つけたコウモリのダニ・虫はどのタイプ?
| 種類 | 見た目・サイズ | 人への被害(刺すか?) | 現場での特徴 |
|---|---|---|---|
| ①コウモリマルヒメダニ | 約4〜6mm・背中は黒く、周囲は透明。平べったい。 | 刺す(激しい痒み・かさぶたになることも) | 狭い隙間に隠れる。1年以上生きることも。 |
| ②コウモリトコジラミ | 成虫は約3〜6mmで茶色。幼虫は1~3mmで透明な黄色。 | 刺す(強いかゆみ、1cmほど赤く腫れる) | 無吸血なら、長期間生存可能と言われる。 |
| ③コウモリノミ | 約2〜3mm・茶色~こげ茶色。縦に細い。 | 被害記録はごく少数、限定的。 | しがみついていて、動きがとてもトロい。 |
| ④その他のダニ(ツツガムシ等) | 約0.2〜1mm。多くが極小さい。黄色、赤色などさまざま。 | 今のところ重大な被害報告はなし | コウモリの耳や被膜によくついている。 |
①コウモリマルヒメダニと②コウモリトコジラミは、人間を吸血した事例がいくつもあり、要注意です。特に、コウモリが一時的にねぐらを離れたり、移動したりした時期に、吸血源を求めて人間を襲うことがよくあります。
③コウモリノミについては、人間に被害を起こした記録があまりなく、私自身も経験していませんので、被害は限定的としました。
④その他のダニついては、かなり多くの種類がコウモリから発見されていますが、あまり被害記録が見当たりません。そのため、その他のコウモリのダニでひとくくりにしました。ただ、被害を起こす可能性はありますので、今のところという記載をしています。
本記事では、私自身の駆除現場での観察や吸血実験の体験談を交えながら、写真とともに詳しく解説していきます。
1.コウモリマルヒメダニ|激しい痒みと「かさぶた」になる謎の虫刺され
![コウモリのダニ・トコジラミ・ノミ写真図鑑|種類・皮膚症状・駆除方法ガイド 33 [写真]白い背景の上に置かれた、外縁部が赤みを帯びたコウモリマルヒメダニの背面。](https://kawahoriprevent.jp/wp1/wp-content/uploads/2026/05/2024-capture-05-carios-dorsal-azumino-1024x576.webp)
「いくら布団をクリーニングしても虫刺されが収まらない」「刺されると、かさぶたにならないと治らない」……もしそんな症状に悩まされているなら、原因はこの「コウモリマルヒメダニ」かもしれません。
コウモリマルヒメダニは、通常はコウモリの血を吸って生きています。しかし、コウモリがねぐらを移動したり、追い出されていなくなったりすると、新たな血を求めて人間の部屋に侵入し、人を刺すという非常に厄介な性質を持っています。
日本国内でも、宮崎県においてコウモリマルヒメダニによる人体刺咬例が確認・記録されており(成田ら, 2023)、私のいる長野県でも報告があります。三重県をはじめとする複数の都府県でも発見例が報告されており、全国的に分布が確認されています(Urban Pest, 2019)。
特徴的な症状|「かさぶた」になることもある激しい虫刺され
コウモリマルヒメダニに刺されると、激しい痒みや赤み(発赤・丘疹)が出ます。私の経験上、コウモリ由来のダニや虫の被害が一番ひどいのがこのダニです。
![コウモリのダニ・トコジラミ・ノミ写真図鑑|種類・皮膚症状・駆除方法ガイド 34 [写真]人の腕の皮膚表面に見られる、コウモリマルヒメダニ被害による複数の発赤および発疹。](https://kawahoriprevent.jp/wp1/wp-content/uploads/2026/05/2024-capture-04-carios-vespertilionis-bite-azumino-1024x576.webp)
コウモリマルヒメダニはどんな見た目か|平べったく、わずか2ミリの隙間に隠れる
分類は、ダニ目ヒメダニ科カリオス属 Carios vespertilionis です。
コウモリマルヒメダニの外見は、体長はおよそ4〜6ミリ。ぱっと見は黒く見えて、黒には凹凸があり、背中周囲は透明がかっています。肉眼でもしっかりと存在がわかる大きさで、全体的に平べったい楕円形。
マダニの仲間ではありますが背中に硬い甲羅(背板)を持たない「軟質ダニ(Argasidae)」に分類される種類です。
![コウモリのダニ・トコジラミ・ノミ写真図鑑|種類・皮膚症状・駆除方法ガイド 35 [写真]コウモリマルヒメダニ背面の接写。外縁部がやや赤く、中心部が黒褐色の放射状凹凸構造が確認できる。](https://kawahoriprevent.jp/wp1/wp-content/uploads/2026/05/2024-capture-07-carios-vespertilionis-macro-azumino-1024x576.webp)
![コウモリのダニ・トコジラミ・ノミ写真図鑑|種類・皮膚症状・駆除方法ガイド 36 [写真]コウモリマルヒメダニ腹面の接写。半透明の脚部と、外縁部が赤みを帯びた腹面構造が確認できる。](https://kawahoriprevent.jp/wp1/wp-content/uploads/2026/05/2024-capture-05-carios-vespertilionis-dorsal-azumino-1024x576.webp)
![コウモリのダニ・トコジラミ・ノミ写真図鑑|種類・皮膚症状・駆除方法ガイド 37 [写真]木材の上に置かれたコウモリマルヒメダニの側面。](https://kawahoriprevent.jp/wp1/wp-content/uploads/2026/05/2024-capture-06-carios-vespertilionis-lateral-azumino-1024x576.webp)
![コウモリのダニ・トコジラミ・ノミ写真図鑑|種類・皮膚症状・駆除方法ガイド 38 [写真]白い背景に置かれた赤みを帯びたコウモリマルヒメダニと、比較用の人の親指。](https://kawahoriprevent.jp/wp1/wp-content/uploads/2026/05/2024-capture-01-carios-red-azumino-1024x576.webp)
私の印象ですが、コウモリマルヒメダニはとにかく平べったくて、よく見るとどこか可愛らしい形をしています。ただ、この平べったさがくせ者で、わずか2ミリほどの隙間へスルスルと入り込んでしまいます。
光を当てるとゆっくりと逃げていくため、発見しにくく、駆除の際にも逃がしやすい厄介な相手です。エアコンの配管を通すスリーブの中など「こんなところに?」という意外な場所で見つかることもあります。
現場観察記|なぜ「かさぶた」になるのか?
長野県北信地方で私が調査した、あるご家庭(Aさん宅)での実例です。
![コウモリのダニ・トコジラミ・ノミ写真図鑑|種類・皮膚症状・駆除方法ガイド 39 [写真]屋内の白い壁面に設置された換気扇カバーの下部に付着するコウモリマルヒメダニ。](https://kawahoriprevent.jp/wp1/wp-content/uploads/2026/05/2024-capture-03-carios-vespertilionis-vent-azumino-1024x576.webp)
私にダニの駆除を依頼してくださったAさんは、体中に何十カ所も虫刺されがあり、一部はかさぶたになっていました。ひどい痒みを訴えるだけでなく「刺されると、かさぶたにならないと治らないんです」とおっしゃっていたのが印象的でした。
経緯としては、こうです。あまり経験したことのないほどのひどい虫刺されが続き、なかなか治らないことに悩んだAさんは、なにか変わった虫が家の中にいるのではないかと思ったそうです。
そうして近所の皮膚科を受診したところ、担当医師から「皮膚の症状が通常の虫刺されとは異なる」と診断され、ダニや野生動物に詳しい専門業者への相談を勧められたそうです。そこで、野生動物や変な虫に詳しい業者なら、かわほりプリベントの山岸だということで、私に依頼をくださったというわけです。
私がAさん宅を調査をしてみると、Aさんが毎晩寝ているベッドのすぐ横の壁上部に換気口があり、そのエアコン配管のスリーブ内に、アブラコウモリが生息していました。さらに奥には、コウモリマルヒメダニも潜んでいることがわかりました。
Aさんの家の中には、同じような換気口が複数あり、そのいくつかでもコウモリが住み着いていた痕跡がありました。このことから、Aさんの被害は、コウモリマルヒメダニによる吸血の可能性が高いと判断をしました。
さて、Aさんがおっしゃっていた「かさぶたにならないと治らない」という言葉。なぜかさぶたになるのか、少し考えてみます。
コウモリマルヒメダニはマダニの一種です。マダニが血を吸う際、人間の皮膚の表面だけでなく、深い真皮層にまで口器を刺し込みます。そのため局所の出血や細胞の壊死が起こり、その深い傷が修復される過程で痂皮(かさぶた)が形成されたのではないかと思います。
海外でも、スウェーデンやドイツで複数のヒト刺咬例が記録されており、紅斑・丘疹だけでなく「かさぶたや潰瘍を伴う皮膚病変」と報告があります。私は人間の専門家ではないので確かなことは言えませんが、Aさんと同じような「激しい痒みやかさぶた」を訴えるお客様を複数見ているので、コウモリマルヒメダニの被害症状としては、よくあることなのでしょう。
コウモリがいなくなっても1年以上生き延びる事実
もうひとつ、このダニの恐ろしい点は、その生命力です。軟質ダニの仲間は一般的に非常に長寿で、絶食状態でも1年以上生き延びる能力を持っています。コウモリが自ら出て行ったり、コウモリ本体だけを追い出したりした場合、このダニは壁の隙間や天井裏に取り残されます。
そして、コウモリが戻ってこないとわかると、今度は人間の血を狙って室内へ降りてくることがあります。「コウモリを追い出したから安心」は大きな誤りです。コウモリ対策を行う際は、必ず「ダニの殺虫処理」もセットで行う必要があります。
学術情報まとめ|コウモリマルヒメダニ
分類:ダニ目ヒメダニ科カリオス属 Carios vespertilionis
主な宿主:アブラコウモリ、ヒナコウモリ、クビワコウモリなど。これらはいずれも日本の住宅・集合住宅・寺院などに侵入・定着した記録がある身近な種類です。ヨーロッパでの研究でも、Eptesicus属やMyotis属など様々なコウモリから本種が広く採集されており、コウモリのいる建物では珍しい存在ではないことがわかっています(Jaenson et al., 2021)。
感染症リスク:イシク・クルウイルス(Issyk-Kul virus)などの節足動物媒介性ウイルスを保有することが知られています。スウェーデンの研究では、コウモリマルヒメダニからヒト病原性が疑われるボレリア(Borrelia)のDNAが検出されたという報告があります(Jaenson et al., 2021)。また別の研究では、リケッチア様微生物のDNAが本種から検出されています(Eszter et al., 2023)。日本では本種を介した感染症の確定例はまだ報告されていませんが、素手で触るなどの接触は避けてください。
2.コウモリトコジラミ|普通のトコジラミと何が違う?刺された時の症状
近年、旅行客の増加などで「トコジラミ(南京虫)」の被害がニュースを賑わせていますが、実は日本のコウモリにも、コウモリ専用のトコジラミが寄生しています。それが「コウモリトコジラミ」です。

見た目は人間のトコジラミとそっくりですが、コウモリの血を吸って生きている別の種です。しかし、天井裏のコウモリが駆除されていなくなったりすると、残された彼らはエサを求めて人間の生活空間に降りてきて、私たちを刺すことがあります。
刺されたときの症状|1センチほどの赤い腫れと強い痒み
コウモリトコジラミに刺されると、1センチ前後の赤い腫れ(紅斑・膨疹)ができ、強い痒みや痛みを伴います。特にアレルギー体質の方の場合、かゆみが長引く傾向があります。
北海道の住宅において、屋根裏のコウモリの巣から発生したコウモリトコジラミが住民を刺したという事例が記録されており(山内ら, 2021)、コウモリが住み着いている家では決して人ごとではありません。
どんな見た目か|人間のトコジラミとの見分け方
分類は、半翅目トコジラミ科トコジラミ属 Cimex japonicus です。なお人間のトコジラミは Cimex lectularius という別種です。
成虫の体長は3〜6ミリほど。茶色~こげ茶色の楕円形。通常時は、平べったい。
幼虫は体長1~3ミリほど。黄色で透明。幼虫成虫ともに吸血する。


人間のトコジラミと比べるとコウモリトコジラミはやや小型で、体表の剛毛(毛)が多く、前胸背板の形などで区別ができます。確実な判別には顕微鏡が必要ですが、経験を積んだ専門家であれば現場でも見分けることが可能です。
分類学的にも、コウモリトコジラミは「bat bug(コウモリトコジラミ類)」として、ヒトトコジラミとは宿主利用が異なるグループに分類されています(Balvín & Booth, 2020)。
日本ではコウモリトコジラミのほかに、ヒトトコジラミ、ネッタイトコジラミ、ツバメトコジラミを合わせた計4種のトコジラミが記録されており(感染症情報センター, 2024)、このうち人の生活空間でとくに問題になるのはヒトトコジラミ・ネッタイトコジラミですが、コウモリがいる建物ではコウモリトコジラミが加わることになります。
コウモリトコジラミが確認されている宿主と分布
コウモリトコジラミは日本では北海道・本州・四国で確認されています(山田ら, 2016)。山内ら(2021)が北海道十勝地方で行った調査では、Nyctalus aviator、Vespertilio sinensis、Myotis frater、Myotis petax など、複数の属にわたるコウモリから採集されており、アブラコウモリだけに寄生しているわけではないことがわかっています。
日本の建築物に侵入・定着する記録があるコウモリとして、ヒナコウモリ、ニホンウサギコウモリ、コキクガシラコウモリ、ヤマコウモリなどが挙げられ、これらにもコウモリトコジラミの寄生が確認されています。
現場観察記|自らの腕で吸血させてわかった「刺し方の雑さ」
私は割とトコジラミは好きな虫で、捕獲するとたびたび連れてきて飼育をします。トコジラミの餌は血なので、飼育には自分の血を与えるのですが、それを何度かしていると、母性というか、愛着がわくのです。飼育してみると、かわいい虫ではあります。
日本には、トコジラミの研究はたくさんあるのですが、コウモリトコジラミの研究や飼育記録がほぼなく、症状や殺虫剤の効果記録に至っては皆無です。ですので飼育して実験をしてわかることが多いのです。ということで、コウモリトコジラミの吸血はどう行われるのかを実際の写真で、見ていきましょう。
まずは、コウモリトコジラミの幼虫から。私の上にのせると、やや迷ったように動いた後に、吸血をはじめました。
![コウモリのダニ・トコジラミ・ノミ写真図鑑|種類・皮膚症状・駆除方法ガイド 43 [写真]人の皮膚上で吸血を開始した直後のコウモリトコジラミの幼虫の側面。体はまだ扁平な状態を保っており、皮膚に口器を刺入している。](https://kawahoriprevent.jp/wp1/wp-content/uploads/2026/05/2024-record-15-batbug-feed-start-nagano-1024x576.webp)


コウモリトコジラミに限らず、トコジラミの仲間は、吸血をすると、体の形が変わります。血を吸うと体がパンパンに膨らみ、細長い筒状になります。色も黒っぽく(暗赤色に)変化します。
続いてコウモリトコジラミの成虫の吸血写真。
![コウモリのダニ・トコジラミ・ノミ写真図鑑|種類・皮膚症状・駆除方法ガイド 46 [写真]人の皮膚上にいるコウモリトコジラミの成虫。体は扁平な形状を保っており、淡褐色の状態。](https://kawahoriprevent.jp/wp1/wp-content/uploads/2026/05/2024-P8110410-batbug-adult-start-nagano-1024x576.webp)

私は、人間のトコジラミとコウモリトコジラミ、ツバメトコジラミ、この3種を飼育して吸血させてきた経験があります。
その中で、コウモリトコジラミで実際に吸血させてみて、コウモリトコジラミと人間のトコジラミの吸血行動で、気づいたことが3つあります。
コウモリトコジラミは、刺し方が雑。わずかに痛みを感じる:人間のトコジラミは、気づかれないよう無痛で刺してくるプロフェッショナルです。腕に乗せていても、ほとんど気づきません。しかし、コウモリトコジラミは「あ、今、口の先が入ってきたな」とわかります。痛みとまではいかないですが、刺された皮膚の感覚がありました。
なぜか?これはコウモリが、コウモリトコジラミに刺されても叩き潰すような反撃をしてこないため、コウモリトコジラミは刺し方を丁寧にする必要性がなく、雑になっているのではないかと考えています。
人間の血では長生きできない:人間のトコジラミは、飼育が容易で、私が血を与えれば1〜2か月は生きることができます。(※私はトコジラミの殺虫剤実験のため研究小屋でよく飼育していました)
しかし、コウモリトコジラミは私の血を吸っても、数日から最大でも2週間程度で死んでしまいました。何匹飼育しても長生きをしてくれません。これはコウモリトコジラミはコウモリの血に特化した「bat bug」と位置づけられており(Balvín & Booth, 2020)、この実験結果はそれと一致するものでした。私の血と、コウモリの血では、ちがうのでしょう。
人間のトコジラミより腫れない:私の場合、人間のトコジラミに刺されると腕がパンパンに腫れて2週間ほど症状が続くときが多いのですが、コウモリトコジラミの場合は1センチほど赤く腫れた後、数日で消えてしまうことが多いです。
考えられる理由は、人間のトコジラミよりコウモリトコジラミが小さいため、皮膚に送り込まれるアレルゲン物質が少ないのではないかということと、吸血時間が人間のトコジラミと比べて短い傾向があるのでそれも関係しているのではないかと思っています。
コウモリがいなくなると、半年間は飢えに耐える
コウモリトコジラミも、他のトコジラミと同じく飢えに非常に強いという特徴を持っています。20℃前後の環境であれば、半年以上も血を吸わずに生き延びるとされています。
「コウモリを追い出したからもう安心」と思っていても、屋根裏や壁の裏にはこのトコジラミが潜伏しており、夜になると壁の隙間から這い出してきて人間の血を狙います。コウモリ本体の駆除と同時に、コウモリトコジラミの殺虫処理を徹底しなければなりません。
人のトコジラミとコウモリトコジラミの見分け方
これはそのうち別ページで詳しくやろうかなと思っているですが、まず、顕微鏡やルーペがあるなら、判別は可能です。
私の識別点は、コウモリトコジラミは剛毛。人のトコジラミは剛毛ではない。特にお尻周辺でしっかり判別可能です。前胸背板の形も違いますので、よく見れば間違えることはありません。ついでに、同じ剛毛トコジラミ仲間のツバメトコジラミは、コウモリトコジラミよりも小さいので、これも判別できます。
トコジラミ被害の中には、コウモリトコジラミやツバメトコジラミの被害が混ざっている可能性がある
以前からずっと思っていることが、これです。
通常、トコジラミの駆除をしてほしいと依頼があった場合、駆除業者は100%人間のトコジラミだと考えています。コウモリ由来やツバメ由来の可能性など、本当に1ミリも考慮していないと思います。姿も似ているので、意識してみないと見分けはつきません。
コウモリが建物に住んでいて(または住んでいた)、トコジラミ被害がある場合は、コウモリトコジラミを疑うべきだと思います。
3. コウモリノミ|猫のノミとは違う?人間への影響と意外な生態
「家にコウモリがいる。コウモリのノミが犬や猫、そして人間にもうつるのではないか?」
現代はペットを飼っているご家庭が多いため、このようなご相談を非常によくいただきます。
結論から言うと、コウモリノミが人間を刺して被害を与えたという明確な症例報告は、現在のところ存在しません。
犬や猫につくノミ(イヌノミ・ネコノミ)は人間を刺すことがありますが、コウモリノミは「コウモリの血を吸うこと」に高度に適応しているため、人間やペットの血を吸う能力は極めて乏しいとされています。
どんな見た目か
分類は、ノミ目コウモリノミ科(Ischnopsyllidae)です。体長は約2〜3ミリ。他のノミと同様に体は側方に扁平な形状ですが、コウモリの毛の中に潜り込みやすいよう縦に細長い体型をしています。

日本国内では、アブラコウモリ、ヒナコウモリ、ヤマコウモリ、キクガシラコウモリなど幅広い種類のコウモリからコウモリノミ科の複数種が記録されています(浅川ら, 2003)。
現場観察記|ノミなのに「ピョンピョン跳ねない」?
以前、ヒナコウモリからノミを見つけて捕獲した時のことです。そのノミはコウモリの体に深く食い込むようにしがみついており、ピンセットでつまもうとしても容易には離れませんでした。
そして驚いたのが、動きが非常にのろく、トロいことです。私は以前、保健所に勤務していた時代に犬や猫からノミを採取した経験がありますが、イヌノミやネコノミは人の気配を感じるとピョンピョンと跳躍して逃げ回ります。しかし、コウモリノミは跳ねるそぶりすら見せず、ゆっくりと動くだけでした。
これはおそらく、空を飛ぶコウモリに振り落とされないよう「跳ねて逃げる能力」を捨て、「宿主にしっかり密着して離れない能力」を進化させた結果なのだろうと考えています。動きが遅い分、万が一室内に落ちてしまっても、市販の殺虫スプレーや掃除機で容易に処理することが可能です。
コウモリがいなくなると、短期間で死滅する
トコジラミやダニが「宿主なしでも半年〜1年以上生き延びる」のに対して、コウモリノミはコウモリがいなくなると数日から数週間程度で死滅してしまいます。人への直接被害という点では、3種の中で最もリスクが低い存在といえます。
感染症リスクについて
コウモリノミに関する近年の研究では、バルトネラ属菌(Bartonella spp.)のDNAが検出されたという報告があります(Sakalauskas et al., 2024)。バルトネラ属菌は人獣共通感染症の原因となることがありますが、コウモリノミがそれを人間に伝播するかどうかは現時点では未解明であり、今後の研究が待たれる段階です。
4. コウモリに寄生するその他のダニとアレルギー
ここまでは、直接人を刺す・血を吸う寄生虫について解説してきましたが、最後のセクションは、その他のダニと、コウモリが営巣することで生じる環境的な問題です。

上の写真のように、コウモリの耳に黄色いブツブツ状のダニ(ツツガムシの仲間など、体長0.2〜0.5ミリ程度)が付着していることがあります。また、Spinturnix属(サシダニ)などのダニなどいろいろ見つかります。ただし、これらが直接人を刺したという報告は現在確認されていません。
しかし、天井裏に長期間コウモリがすみつき、糞が堆積した場合、その周囲にさまざまな種類のダニや虫が発生・増殖する可能性はあります。こうしたダニや虫、そして乾燥して粉塵化したコウモリの糞がアレルゲンとなり、アレルギー性鼻炎・皮膚炎・気管支系の症状を引き起こすことが報告されています。
これらの問題は、刺咬・吸血という直接的な害とは性質が異なります。アレルギー体質の方や呼吸器疾患をお持ちの方にとっては、コウモリの追い出し後に糞の清掃・消毒を含めた環境対策が欠かせません。
5. 自宅でコウモリのダニやトコジラミ被害に遭った場合の正しい駆除手順
実際に自宅にコウモリが住みつき、コウモリのダニやトコジラミの被害に遭ってしまった場合、どのように対処すべきかをご説明します。
原則|「コウモリ」と「コウモリの寄生虫」はセットで駆除する
対策における最大の注意点は、「コウモリ本体の追い出し」だけで終わらせないことです。
本記事でお伝えしてきた通り、コウモリトコジラミとコウモリマルヒメダニは、コウモリがいなくなった後も半年〜1年以上生き延び、残された人間の血を吸いに来ます。そして、コウモリを追い出すための忌避スプレーは、ダニやトコジラミには殺虫効果がありません。(※そもそもコウモリ用スプレーは他のリスクもあるので、使用はおすすめしません)
専門業者に依頼する際は、必ず以下の2点をセットで依頼・確認してください。
- コウモリの追い出しと侵入口の封鎖(コウモリ対策)
- ダニ・トコジラミ用の殺虫処理(寄生虫対策)
発生源であるコウモリを駆除せずにダニ対策だけをしても、またコウモリ対策だけしてダニを放置しても、被害は再発します。両方を同時に、あるいはコウモリ対策直後に寄生虫対策を実施しましょう。
なお、大量にコウモリがいて、寄生虫も大量にいることが想定される場合は、コウモリの追い出しの前と後の2回、寄生虫駆除を行うことが有効です。
6. プロ直伝|持ち込んでしまった場合の自力駆除と予防策
一般のご家庭だけでなく、コウモリの保護・調査をしている方や獣医師の方が、調査時にコウモリの寄生虫を車や自宅へ持ち込んでしまうケースがあります。私自身、過去に何度も現場から寄生虫を持ち帰ってしまった経験があります。そんな状況で私が現在実際に現場で使用し、効果を確認している対策アイテムをご紹介します。
おすすめ殺虫剤|KINCHO「コックローチME」
車に落ちた数匹を処理したい、服についた虫を退治したいという場合、私が第一選択肢としているのがKINCHO(大日本除虫菊)の「プロ用トコジラミ駆除剤 コックローチME」です。

この製品を選ぶ理由は3点あります。
幅広い殺虫効果:コウモリトコジラミ、コウモリマルヒメダニ、コウモリノミ、その他のダニ類、いずれに対しても現場での使用において十分な殺虫効果を確認しています。
ハイブリッド成分による即効性と持続性:有効成分としてイミプロトリン(ピレスロイド系)とメトキサジアゾン(オキサジアゾール系)の2系統が配合されており、即効性と持続性を両立しています。
プロもうなる特殊設計:この製品は噴射力が意図的に弱く抑えられています。体が小さく軽いダニやノミに強いスプレーをかけると、風圧で吹き飛んで見失ってしまいます。このスプレーは虫が飛び散りにくく、小さな衛生害虫の駆除に非常に適した設計です。
筆者の立場についての注記:私は過去にKINCHO様と別製品の共同研究を行ったご縁がありますが、この記事は宣伝目的や報酬を得て書いたものではありません。現場での経験から「この製品であれば取りこぼしが少ない」と実感しているため、有効な手段の一つとしてご紹介しています。
おすすめ予防策|市販の虫よけ(ディート・イカリジン)
調査等でコウモリに近づく際の予防策としては、市販の虫よけスプレーを事前に体や靴に吹きかけておくのが基本です。
成分の選び方:「ディート」または「イカリジン」が配合されたものであれば、どちらも現場での予防効果を感じています。効果の差はほとんど気にしなくて問題ありません。
服への影響:ディートは服の繊維や樹脂を変色させる可能性があります。服や靴にかけるなら「イカリジン」を選ぶのが無難です。
子供への使用:ディートは生後6か月未満の乳児には使用できず、12歳未満の子供には使用回数の制限があります。子供がいるご家庭ではイカリジンが使いやすいです。
濃度について:10%や30%など濃度に違いがありますが、数時間ごとにこまめにスプレーし直す前提であれば、濃度はあまり気にしなくて問題ありません。
薬剤抵抗性とコウモリトコジラミについて
人間のトコジラミは、殺虫剤に対して強くなっていて、市販の殺虫剤の多くがかなり効きにくい一族になっていることはご存じの方も多いかと思います。スーパートコジラミなどとニュースで呼ばれています。
一方、トコジラミの仲間であるコウモリトコジラミは、ピレスロイド系に抵抗性は持っていません。非常によく効くことは実験で確かめてあります。
ただし、ここで問題は、幼虫段階だと人間のトコジラミなのかコウモリトコジラミなのか見分けがつかないことです。成虫であれば、顕微鏡ですぐはっきりしますが、幼虫の判別は難しいです。
ですので、コウモリのねぐらではなく、人間の室内でトコジラミを発見した場合は、「抵抗性トコジラミにも効く」「スーパートコジラミにも効く」と表記されている殺虫剤やハイブリッド剤を使うことをお勧めいたします。
7. よくあるご質問(FAQ)
はい、コウモリトコジラミやコウモリマルヒメダニは、人間に刺咬被害やアレルギー症状を引き起こす可能性があります。日本国内でも宮崎県でコウモリマルヒメダニによる人体刺咬例が確認されています(成田ら, 2023)。コウモリノミによる直接的な人への被害は限定的とされています。
いいえ。コウモリトコジラミは半年以上、コウモリマルヒメダニは1年以上、血を吸わずに生き延びることができます。コウモリがいなくなった後こそ、新たな吸血源を求めて人間に接触するリスクが高まるため、寄生虫の殺虫処理もセットで行う必要があります。
コウモリトコジラミが感染症を媒介した確定例は、世界的にも現時点では報告がありません。コウモリマルヒメダニについては、スウェーデンの研究でヒト病原性が疑われるボレリアのDNAが検出されており(Jaenson et al., 2021)、リケッチア様微生物の検出報告もあります(Eszter et al., 2023)。日本での確定例はまだありませんが、素手での接触は避け、駆除は専門家に相談することをお勧めします。
まずは専門業者に相談し、コウモリの追い出しと寄生虫の殺虫処理を両方依頼してください。コウモリ用の忌避剤と寄生虫用の殺虫剤は別物ですので、必ず両方の対策を依頼・確認することが重要です。
コウモリノミはコウモリの血に高度に適応した種であり、犬や猫に寄生・繁殖する可能性は極めて低いとされています。猫のノミや犬のノミとは別の種類です。
謝辞
今回の記事を執筆するにあたり、多くの方々にご支援いただきました。
コウモリマルヒメダニの同定においては、『医ダニ学図鑑 ~見える分類と疫学』(高田伸弘 編著、高橋 守・藤田博己・夏秋 優 著、北隆館 発行)を参考にさせていただきました。
信州大学医学部附属病院 感染制御室の金井信一郎先生には、ダニに関する多くのご教示を賜りました。また、金井先生を通して国立感染症研究所の皆様にも貴重なお時間をいただき、コウモリマルヒメダニの同定と見解についてご助言いただきました。
コウモリトコジラミの採取では、NPO法人コウモリの保護を考える会の皆様、特に代表の峰下耕先生には、多大なるご配慮とご協力をいただきました。このご協力のおかげで、コウモリトコジラミを用いた吸血実験や薬剤試験を実施することができ、本記事に記した新たな知見を得ることができました。
皆様に心より感謝申し上げます。
主な参考文献
・成田翼・成田博実・山本正悟・吉野修司 (2023). 宮崎県で初めて確認されたコウモリマルヒメダニ Carios vespertilionis(Latreille, 1796)による人体刺症例について. 衛生動物, 74(3), 119-122.
https://doi.org/10.7601/mez.74.119
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mez/74/3/74_2303/_pdf
・Naka, A., Ohta, K., Sakai, K., & Hashimoto, T. (2022). First record of Argas vespertilionis (Ixodida: Argasidae) in Okayama Prefecture: Capture during cleaning of a 24-hour ventilation system. 日本ダニ学会誌, 31(2), 85-88.
https://doi.org/10.2300/acari.31.85
https://www.jstage.jst.go.jp/article/acari/31/2/31_85/_pdf
・山内健生・渡辺護 (2010). 家屋内で採集したコウモリマルヒメダニ. 家屋害虫, 32(1), 23-25.
https://dl.ndl.go.jp/pid/10508084
・高田伸弘 編著・高橋守・藤田博己・夏秋優 著 (2019). 医ダニ学図鑑 ―見える分類と疫学―. 北隆館.
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長野県のコウモリと建築物を研究した専門家だからわかる、あなたの家が狙われる本当の理由。
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この記事の執筆者・監修者
山岸 淳一 (Junichi Yamagishi)
かわほりプリベント代表 / クビワコウモリを守る会所属。長野県在住。専門領域は、長野県の山岳性コウモリの生態研究と、コウモリや野生動物の建築物への侵入メカニズムの解析。日本哺乳類学会・日本ペストロジー学会に所属。コウモリの低所侵入メカニズムや上高地でのコウモリ調査は、国の学術データベース(J-GLOBAL)にも登録されている。長野県を拠点に、コウモリや野生動物の生態研究と、直接現場に赴く駆除・防除対策を両立している。ハウスメーカーから大学病院、古墳まで対策実績多数。動物と人間との間に生じた曖昧な境界線を整えることが使命。SBC信越放送ラジオ「もっとまつもと」内コーナー「かわほり先生の生き物万歳」(毎月第4木曜日16:20~)レギュラー出演中。三度の飯よりコウモリが好き。
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