アブラコウモリの冬眠とは何か?|専門家が教える定義と現場考察シリーズ2

【30秒でわかる】アブラコウモリの冬眠まとめ

アブラコウモリの冬眠時期

11月中旬頃から徐々に冬眠に入り、翌年3月頃までです

コウモリはなぜ冬眠する?その理由は?

餌となる虫がいませんから、活動するよりも冬眠したほうが生存に有利です。

単なる睡眠ではなく、体温を外気温ギリギリまで下げ、心拍や呼吸を極限まで落としてエネルギー消費を1/10にする「生存戦略」です。

なぜコウモリは住宅で冬眠するのか?

高気密・高断熱の住宅、特に「断熱材(グラスウール)の中」は、凍死を防げる最高の冬眠場所です。

【重要】冬の「穴埋め工事」は絶対NG!

冬はコウモリを見かけなくても、天井裏や壁の奥深くに潜んでいます。この時期に出入り口を塞ぐと、「閉じ込め→餓死→腐敗・ダニ発生」という最悪の二次被害を招きます。

アブラコウモリの冬眠深掘り解説

コウモリの冬眠の定義

こんにちは、かわほりプリベントの山岸淳一です。

今回はコウモリの冬眠についての解説回です。一番身近なコウモリであるアブラコウモリを主に話をしていきます。

アブラコウモリ(Pipistrellus abramus)の冬眠は、単なる「深い眠り」ではなく、厳しい環境下での生存を可能にする高度な代謝制御システムと言えます。

専門的な言葉で言うと、彼らは「異温性(heterothermy)」という特質を持っています。環境温度に合わせて自らの体温を変化させています。

体温をコウモリ自ら変化させるということは、どういうことか?

日本本州に住むコウモリたちは、食虫性コウモリと言って虫ばかりを食べるコウモリです。

虫は種類にもよりますが、一般的に春から秋に多く、冬は虫の数が少なくなります。

コウモリは昆虫の減少に伴い食物が得られなくなると、エネルギー消費を最小限に抑えるため、体温を外気温近くまで低下させます。

基礎代謝率を活動時の約10分の1にまで減少させる「冬眠(hibernation)」に入ります。 この際、酸素消費量、心拍数、呼吸数も劇的に減少します。

これがコウモリの冬眠メカニズムです。

長野県塩尻市で撮影されたアブラコウモリの接写。人の指にしがみついている様子で、焦げ茶色の毛並みと小さな耳がはっきりと写っている。
長野県塩尻市で確認されたアブラコウモリ。指先に乗るほどの小ささが特徴。

冬眠の期間と体重変化

コウモリの冬眠はいつからいつまでか

日本におけるアブラコウモリの冬眠期間は、概ね11月中旬から3月中旬までとされています。これは地域やその年の気温によっても変動します。

冬眠に備え、彼らは9月から10月にかけて集中的に採食を行い、体重の約30%に相当する脂肪を体内に蓄積します。

この蓄積された脂肪は、数ヶ月に及ぶ絶食状態を維持するための唯一のエネルギー源となります。

なぜアブラコウモリは住宅や建物で冬眠するのか

アブラコウモリは、主に人間が居住する住宅や建物ばかりを越冬場所(ヒバナキュラム)として選択します。なぜか?

彼らが家屋の屋根裏、瓦の下、壁の隙間などを好む理由は、それらの場所が外気温の変化に対して比較的安定しており、かつ湿度が低く保たれているためと考えられています。

特に近年の日本の住宅は、断熱材の普及や気密性の向上により、コウモリにとって「凍死のリスクが低く、エネルギーロスを抑えられる理想的な環境」をとなってしまっています。


冬眠中の覚醒と活動

誤解されることが多いのですが、アブラコウモリの冬眠は長く続きますが、数ヶ月間一度も目覚めないわけではありません。

アブラコウモリは冬眠中も数日に一度、あるいは暖かい日には一時的に「覚醒」します

これは中途覚醒と呼ばれ、排泄やねぐら内の移動、あるいは水分補給のために行われると考えられています。

覚醒には膨大なエネルギー(脂肪)を消費するため、頻繁な覚醒は生存リスクに直結します。

暖かい日は、冬でもコウモリが飛ぶ姿を見かけるのは、このためです。

コウモリの冬眠と対策のタイミング

知識のない業者や建設会社がやってしまうのが、冬の時期に「姿が見えないからいなくなった」と誤認して出入り口をふさいでしまうことです。

冬眠中のコウモリは隙間の奥深くに潜り込み、代謝を下げて静止しているため、発見がとても難しいです。

この時期に封鎖工事を行うと、コウモリを家屋内に閉じ込め、春の覚醒時に室内に迷い込ませたり、内部で死亡させて腐敗臭や衛生問題を引き起こしたりするリスクがあるのです。

山岸淳一の現場考察フィールドノート「コウモリの冬眠編」

信州の冬を生き抜くアブラコウモリの「戦略的越冬」と、住宅構造の盲点

コウモリ対策の現場において、冬は「静かなる攻防」の時期です。しかし、信州のような寒冷地では、その静寂の裏でコウモリたちが極めて高度な生存戦略を練っています。

越冬場所の「深化」:夏と冬で使い分ける住宅の隙間

アブラコウモリは通年で同じ住宅をねぐらにしますが、季節によって潜む「深さ」を使いわけることがあります。

夏場によく見かけるベランダの手すり笠木や袖瓦などは、冬場にはほとんど空になります。

これは、それらの場所が外気の影響を受けやすく、氷点下まで下がる信州の冬には「寒すぎる」からです。

彼らが冬眠場所に選ぶのは、より外気から遮断され、温度変動が極めて少ない場所。その最たるものが「断熱材(グラスウール)の内部」です。

究極のシェルター:断熱材グラスウールという「温室」

秋に現場で最も多く目撃するのは、天井板(または内壁)とグラスウールの間にいるコウモリです。

ここは室内の暖気がわずかに伝わり、かつ外壁からの冷気は断熱材によって遮断される、彼らにとっての「プレミアムな冬眠室」です。

立科町の別荘地などの極寒エリアでは、ウサギコウモリがグラスウールを覆うビニールを自ら破り、断熱材の中に完全に入り込んで越冬していた事例もありました。

彼らは冬眠中も完全に不動ではなく、より安定した温度を求めて、壁内や天井裏をわずかずつ移動していると考えられます。

長野県立科町の別荘の天井裏。シルバーの袋に入った黄色い断熱材が破られ、中にコウモリが侵入して冬眠場所として利用されていた形跡を示す写真。
長野県立科町の別荘にて。シルバーの防湿シートを破り、断熱材(グラスウール)の内部でウサギコウモリが冬眠していた痕跡。

冬眠中なのに、うっかり部屋へ出てきてしまうコウモリの事情

「真冬なのに家の中にコウモリが出た」という相談は、信州でも珍しくありません。

特に最高気温が10度を超える暖かい日が続くと、壁内で代謝が上がった個体が「うっかり」起きてしまうのです。

この際、彼らは外へ出るのではなく、より暖かい空気を求めて室内側へ移動します。その出口となりやすいのが、天井の照明器具の配線隙間や、気密性の甘い配電盤の奥です。

専門家としての倫理:なぜ冬に「追い出し」をしないのか

私は、真冬の天井裏追い出しや封鎖工事は原則として行いません。

外壁の換気口付近など、生存が目視確認でき、確実に追い出せるケースを除き、壁の奥深くに潜り込んだ個体を完全に追い出すことは不可能だからです。

この時期に無理な工事を行えば、冬眠中の個体を壁の中に閉じ込め、春の覚醒時に室内へパニック状態で迷い込ませるか、最悪の場合、壁内で死亡させて深刻な二次被害(腐敗・悪臭・衛生害虫の発生)を招くことになります。

結論として、冬のコウモリ対策は「今、何が起きているか」を正確に診断する洞察力が求められます。

姿が見えないからといって解決したわけではなく、彼らは家の「より深い場所」で春を待っているのです。

コウモリの冬眠でよくある質問Q&A

Q
アブラコウモリは冬の間、家のどこで冬眠していますか?
A

冬場は建物内でも、気温変動が少ない場所にいます。

例えば、壁の中や天井裏、換気口の中やエアコン周辺など。夏場より、冬はより気密性が高く、室内の暖気がわずかに伝わる断熱材の奥深くへと移動し、寒さを凌いでいます。

Q
真冬なのにコウモリがどこからか室内に出てきたのですが、なぜですかか?家の中に現れたその理由は?
A

冬にしては暖かい日が数日続くと、壁の中にいたコウモリが「うっかり覚醒」し、活動を開始してしまうためです。目覚めた個体は外へ出るよりも、より温かい空気を求めて室内側へ移動する傾向があり、天井の照明配線用の隙間や配電盤の奥から室内に迷い込むケースが多く見られます。

Q
冬にコウモリの追い出し駆除や封鎖工事をしても大丈夫ですか?
A

原則として、真冬の追い出し駆除工事は推奨しません。

冬眠中のコウモリは代謝を下げて壁の奥深くに潜り込んでいるため、完全に追い出すことが困難です。

その状態で隙間を封鎖すると、コウモリを家の中に閉じ込めることになり、春に室内へパニック状態で侵入したり、壁内で死亡して腐敗臭や害虫を招くリスクが高まります。

Q
コウモリは冬眠中、一度も目覚めないのですか?
A

いいえ、完全に眠り続けるわけではありません。数日から十数日に一度は一時的に目覚める(中途覚醒)ことが知られています。

また、より適切な温度環境を求めて、壁の中や天井裏でわずかに移動することもありますし、外にでて水を飲むことも確認されています。

Q
冬にコウモリの糞がなくなりました。いなくなった証拠ですか?
A

アブラコウモリは通年で同じ建物をねぐらにする定着性の強い動物です。冬に姿が見えないのは、いなくなったのではなく、家のより深い場所(壁内や断熱材)に移動して静止しているだけです。

虫が少なく、冬眠しているので、排泄も少なくなります。フンが減るのも当然といえます。

参考文献

Funakoshi, K., & Uchida, T. A. (1978). Studies on the physiological and ecological adaptation of temperate insectivorous bats: III. Annual activity of the Japanese house-dwelling bat, Pipistrellus abramus. Journal of the Faculty of Agriculture, Kyushu University, 23(1/2), 95–115. https://doi.org/10.5109/23682

McNab, B. K. (1969). The economics of temperature regulation in neotropical bats. Comparative Biochemistry and Physiology, 31(2), 227–268. https://doi.org/10.1016/0010-406X(69)91651-X

Racey, P. A. (1973). The time of onset of hibernation in pipistrelle bats, Pipistrellus pipistrellus. Journal of Zoology, 171(4), 465–467. https://doi.org/10.1111/j.1469-7998.1973.tb02225.x

この記事の執筆者・監修者

かわほりプリベント代表 山岸淳一

山岸 淳一 (Junichi Yamagishi)

長野県を拠点に活動する「野生動物の仕分け屋」。かわほりプリベント代表。動物と人間との曖昧になった境界線を整えることを使命とし、重要文化財から一般宅まで実績多数。SBC信越放送「もっとまつもと!」にレギュラー出演中。三度の飯よりコウモリが好き。

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