第30回コウモリフェスティバル講演報告:「乗鞍・上高地・沢渡におけるコウモリ」のお礼

2026年6月27日、長野県松本市エリアで開催された「第30回コウモリフェスティバル」にて、かわほりプリベント代表の山岸淳一が、「乗鞍・上高地・沢渡におけるコウモリ」と題した講演を行いました。

コウモリフェスティバルは、全国からコウモリの研究者や愛好者が集まる年に一度のイベントで、毎年開催地を変えながら今回で30回目を迎えます。当日はあいにくの天候ではありましたが、予想を大きく上回る方々にお越しいただき、立ち見が出るほどの満員となりました。これほど多くの方に、コウモリをはじめとする野生動物と自然環境の関係に関心を持っていただけたことを大変嬉しく感じています。ご来場いただいた皆様、誠にありがとうございました。

本講演は、山本輝正先生を中心に、私が参加している「クビワコウモリを守る会」「コウモリの会」、そして長野県自然保護課によって構成された研究チームが、2024年から継続している乗鞍高原・上高地・沢渡エリアの生態調査に関する報告です。今回は、希少種クビワコウモリを中心とした生態的知見と、建築物への侵入メカニズムに関する考察についてお話しした内容を振り返ります。

2026年6月27日コウモリフェスティバル乗鞍・上高地・沢渡におけるコウモリについての講演画像
2026年6月27日コウモリフェスティバル乗鞍・上高地・沢渡におけるコウモリについての講演画像

この記事の要約

  • 乗鞍・上高地・沢渡エリアにおけるコウモリ生態調査の最新報告
  • 同エリアにおいて11種のコウモリの生息を確認
  • サーマルスコープおよびバットディテクターを用いた調査手法
  • クビワコウモリに見られる人工物利用の謎
  • 生態学と建築学を統合した侵入メカニズムの解明と対策への応用

コウモリの生態調査の成果と手法

11種のコウモリ生息確認と生態系の評価

私たちの研究チームが長年にわたり捕獲調査および音声調査(バットディテクター)を継続してきた結果、乗鞍から上高地、沢渡へと連なるエリアにおいて、現在11種類のコウモリが生息していることがわかりました。これは、梓川水系から北アルプスの森林帯にかけての生態系が非常に豊かであることを示しています。

サーマルスコープによる夜間行動の可視化

夜の上高地にて、森の中を歩く人のサーマル映像
上高地、夜間の林内における熱源探知テスト。サーマルスコープを使用し、歩行中の人物を捉えた映像。

講演では、サーマルスコープを用いて撮影した調査映像を紹介しました。上高地の徳澤地区の林内や小梨平地区の小川ではホバリングしながら採餌する様子が確認され、乗鞍高原の林内では複数個体が同時に飛び交う採餌行動が観察されています。

夜間のコウモリの活動は肉眼では把握できませんが、こうした技術によって採餌行動と環境との関係を明らかにすることができます。コウモリは種ごとに利用する環境が異なり、アブラコウモリは林内よりもオープンスペースを好む傾向があります。また、昆虫が集まりやすい環境とナイトルースト(夜間の休憩場所)の位置関係が、活動範囲や定着に大きく影響することも分かってきています。

上高地の川の上を飛ぶコウモリのサーマル映像
上高地の川面にて。夜間調査中にサーマルスコープで撮影した飛行中のコウモリ。

クビワコウモリの「見えないねぐら」の謎

今回の講演で特に重要なテーマとしたのが、フィールドワークを通じて調査している山岳地域の希少種クビワコウモリ(学名:Eptesicus japonensis)の生態です。本来、この種は樹洞などの自然物をねぐらとすることが知られていますが、乗鞍高原では建物の隙間など人工物を利用する事例が確認されています。

ここで大きな謎となるのが、クビワコウモリの「冬季の足取り」です。

クビワコウモリは、出産を終えて秋が深まってくると乗鞍・上高地地区から姿を消してしまいますが、彼らがどこへ移動し、どのような環境で冬眠しているのかは未だ解明されていません。季節による環境選択の変化や移動ルート、さらには複数の生息地を行き来する「メタ個体群構造」の可能性など、今後の研究における多くの課題が残されています。

生態学的知見から建築物侵入メカニズムへ

コウモリの人工物利用の背景と侵入メカニズム

樹皮の上で静止するクビワコウモリのクローズアップ。種の特徴である首回りの琥珀色の毛と、厚みのある吻部(鼻先)、黒く光る目が鮮明に写っている。
クビワコウモリ(学名:Eptesicus japonensis)。乗鞍高原に世界的にも貴重な繁殖コロニーを持つ日本固有種。環境省および長野県レッドリストで絶滅危惧IB類(EN)に指定されている。長野県松本市で撮影。

最新の調査では、クビワコウモリが特定の時期に人工物を利用するだけでなく、これまで把握されていなかった未知のねぐらが存在する可能性も見えてきました。

さらに、建物や場所によって集まるコウモリの目的や個体構成が異なることも推測されます。この現象は単なる生物学的な興味にとどまらず、野生動物がなぜ建築物へ侵入するのか、そのメカニズムを解明するための重要な手がかりとなります。

コウモリがどのような環境を好み、どのように建物の隙間を発見して利用するのかを理解するには、建物単体を見るのではなく、周囲の自然環境や外構との関係を含めて総合的に捉える視点が不可欠です。

【自然環境と人工物をつなぐ視点】 コウモリが自然環境から人工物へと移動するプロセスを明らかにすることは、人間と野生動物との不要なトラブルを減らすことに繋がります。このアプローチは、単なる表面的な駆除や対策ではなく、「なぜ侵入が起きるのか」の根本を解決するための基盤となります。

長野県のコウモリ対策と共存、今後の展望

地域差を踏まえた対策の必要性

コウモリの生息地である、乗鞍高原の緑豊かな湿地の景観。
乗鞍高原の湿地帯。豊かな自然が残るこの環境は、夜になると多くのコウモリが飛び交います。

私が活動拠点とする塩尻市をはじめ、松本市、長野市、上田市、千曲市、駒ヶ根市、さらには八ヶ岳や軽井沢といった高原の別荘地まで、長野県内の建築環境は地域ごとに大きく異なります。

森林に囲まれた別荘建築と都市部の住宅・ビルでは、コウモリが選択する侵入ポイントやナイトルーストの条件も異なります。そのため、この地域特有の違いを考慮せず、一律の対策を当てはめても十分な効果は得られません。

コウモリ対策においては「どこの地域でも同じ対応をすればよい」というわけではなく、それぞれの地域や環境に深く寄り添った視点を持つことが極めて重要です。

かわほりプリベントと代表山岸淳一の取り組み

かわほりプリベントでは、フィールドワークによって得られる生物学的な一次情報と、構造を読み解く建築学的視点を統合し、それぞれの地域特性に応じた最適な対策を提供しています。

今後も長野県全域、そして新潟県・群馬県・山梨県において調査と対策を継続し、事実に基づいた知見の蓄積と共有を進めてまいります。そして、コウモリと人間が無理なく共存できる「適切な距離感」を築いていくことを目指します。

最後になりますが、悪天候の中ご来場いただいた皆様、日頃から調査活動を支えてくださる地域の皆様、そしてクビワコウモリを守る会およびコウモリの会の皆様に、心より感謝申し上げます。

コウモリフェスティバル2026関連ページ

コウモリの会 コウモリフェスティバルページ(外部リンクが開きます)

クビワコウモリを守る会 第30回 2026年コウモリフェスティバル in 乗鞍高原開催のお知らせ(外部リンクが開きます)

クビワコウモリを守る会 第30回コウモリフェスティバル2026 in 乗鞍高原 閉幕の御礼と開催報告(外部リンクが開きます)

のりくら観光協会公式サイト 【2026年6月27日〜6月28日】第30回コウモリフェスティバルin乗鞍高原 (外部リンクが開きます)

この記事の執筆者・監修者

かわほりプリベント代表 山岸淳一

山岸 淳一 (Junichi Yamagishi)

かわほりプリベント代表 / クビワコウモリを守る会所属。長野県在住。専門領域は、長野県の山岳性コウモリの生態研究と、コウモリや野生動物の建築物への侵入メカニズムの解析。日本哺乳類学会・日本ペストロジー学会に所属。コウモリの低所侵入メカニズム上高地でのコウモリ調査は、国の学術データベース(J-GLOBAL)にも登録されている。長野県を拠点に、コウモリや野生動物の生態研究と、直接現場に赴く駆除・防除対策を両立している。ハウスメーカーから大学病院、古墳まで対策実績多数。動物と人間との間に生じた曖昧な境界線を整えることが使命。SBC信越放送ラジオ「もっとまつもと」内コーナー「かわほり先生の生き物万歳」(毎月第4木曜日16:20~)レギュラー出演中。三度の飯よりコウモリが好き。

かわほりプリベント・サービスガイド

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