共同研究論文「上高地にクビワコウモリを求めて」がコウモリ通信第33号に掲載されました

長野県塩尻市を拠点に、長野県及び近隣県での建築物のコウモリ侵入防止や対策を専門とする、かわほりプリベント代表の山岸淳一です。

2026年3月発行の『コウモリ通信 第33号』(コウモリの会発行)において、私が調査団の一員として参加した共同研究論文「上高地にクビワコウモリを求めて(山本輝正ほか)」が掲載されました。

本調査は、長野県上高地におけるクビワコウモリの生息確認を目的とし、クビワコウモリを守る会と長野県自然保護課の共催、および環境省等の許可の下で実施された学術プロジェクトです。

上高地におけるコウモリ調査の背景

実は上高地のコウモリについては、長い間どういったコウモリがいるのか「よくわからない」状態が続いていました。 1988年から1990年にかけて前田喜四雄先生が4種類のコウモリを報告して以来、30年以上もの間、まとまった調査が行われてこなかったからです 。

これには理由があって、そもそも上高地が「特別天然記念物」であり「特別名勝」であるという点です 。 日本屈指の保護区で、石一つ、枝一本すら持ち帰れないエリアで調査の許可を得るには、コウモリの研究者としてかなり高い信頼、目的、そして実績が必要なのです。

今回のプロジェクトは、日本のクビワコウモリ研究の第一人者である山本輝正先生をリーダーに、私を含めて15名の、全国各地のコウモリ研究者や長野県自然保護課などが加わったことで、実現したプロジェクトでした。

私は本調査において、フィールドでのトラップ設置および捕獲実務を担当しました。

上高地の暗い森林内で行われている夜間コウモリ調査の風景。ヘッドライトを点灯した複数の調査員が、樹間に設置されたかすみ網の状況を慎重に確認している。
日没後の夜間フィールド調査風景。暗闇の森林内でかすみ網を確認しつつ、コウモリが地形や障害物といったランドマークをどのように認識して飛行ルートを選択するのか、実際の環境下で直接観察を行います(2024年7月20日 上高地にて撮影)。

調査団の目的は2つ。

  • 上高地のコウモリ相を調べること。
  • 隣の乗鞍高原でのみ繁殖している希少種「クビワコウモリ」を、上高地で見つけること。

どういうことかというと、上高地の隣にある乗鞍高原では、乗鞍高原でのみ繁殖している希少種「クビワコウモリ」がいます。私も普段から調査研究と保護活動をしているコウモリなのですが、このコウモリが乗鞍高原のカウント調査で減少傾向にあるのです。

いったいなぜ減っているのか。もしかすると、このクビワコウモリの個体群は、上高地へ移動しているのではないか、という仮説を検証したいという目的がありました。

上高地のコウモリ論文の結果概要

詳しくはコウモリ通信の論文を読んでいただくとして、調査結果の概要を記載しておきます。

  • 上高地では、計2科10種のコウモリの生息を確認しました。それまでは4種でしたので大きな前進です。
  • ヒナコウモリ、ヒメホオヒゲコウモリ、ニホンウサギコウモリにおいて、当歳獣(その年に生まれた個体)や授乳中のメス個体を確認しました。これにより、上高地がこれらの種の出産哺育の場として機能していることが学術的に実証されました。
  • 複数の調査地点において、バットディテクターによりピーク周波数 27.0–27.7 kHz 付近のFM/QCF型音声を確認しました。これはクビワコウモリ(Cnephaeus japonensis)の音声特徴と合致しており、上高地内における本種の活動を示唆する極めて重要なエビデンスとなります。
上高地の調査で捕獲されたコウモリ。黄色の腕章をつけた調査員が厚手の手袋を着用し、前腕部に調査用の標識リングを装着したコウモリを安全に保定している。
捕獲されたコウモリの記録作業。体重や前腕長などの外部計測、種や成長段階の同定を行い、前腕部に個体識別用の標識を装着して放逐します。個体群の動態や生息実態を明らかにするための不可欠なデータとなります(2024年7月20日 上高地にて撮影)。

この上高地コウモリ調査プロジェクトで私が得た知見

今回の共同研究で私にとっての最大の収穫は、この調査過程で多くの研究者の方から教えていただいた、コウモリの飛行行動とルート選択のメカニズムに関する考察の知見です。

コウモリが自然環境下でどのような地形やランドマークを指標にして飛行ルートを決定するのか。

上高地の夜の森で多く研究者からのこのテーマについて、様々なことを教えていただきました。特に東北のコウモリのトップ研究者である峰下耕先生から直接ヒナコウモリのランドマーク認識、多角的な視点からコウモリの空間認識のロジックを学べたことはとても有意義でした。

上高地の暗い森林内で行われている夜間コウモリ調査の風景。ヘッドライトを点灯した複数の調査員が、樹間に設置されたかすみ網の状況を慎重に確認している。
日没後の夜間フィールド調査風景。暗闇の森林内でかすみ網を確認しつつ、コウモリが地形や障害物といったランドマークをどのように認識して飛行ルートを選択するのか、実際の環境下で直接観察を行います(2024年7月20日 上高地にて撮影)。

峰下先生の考察を聞き、そういう地形を探し、そこにトラップを設置すると、実際にその通りに捕獲できた驚きは、「コウモリがどのように人間の建造物を認識し、どの空間ルートを選択して、移動するのか」という、建築物へのアプローチパターンの解明に直結する知見でした。

コウモリの学術研究と現場対策を融合させるために

現在、コウモリの学術研究分野と、一般的なコウモリ駆除業界は事実上分断されています。コウモリの生態学的な知見を持たない業者が、お客様にコウモリの恐怖を煽って、なんとなくの施工を行っている現実があります。

私はそれを変えたい。

海外のようにきちんとした理論で、人間と建物とコウモリ、それぞれに安全で、よりより対策する日本にしたい。

私は長野県内でコウモリ防除の現場と学術調査を両立する専門家として、自らフィールドの最前線に飛び込みます。そこで得た最新の生態データとエビデンスを、建築物での論理的な防除手法へ還元することで、より良いコウモリと人間の距離を実現したいと考えています。

家屋に棲みつかれ、被害に遭われている方にとって、コウモリは決して良いイメージを持つ生物ではないはずです。しかし、彼らは生態系において極めて重要な役割を担っており、その生態を紐解くほどに、本来は特異で魅力的な生物であることがわかります。

かわほりプリベント山岸淳一の事業理念は、創業以来ずっと、人間と動物の間に軋轢のない適切な距離感を作り出すことです。ただ一方的に排除するのではなく、生態を深く理解し、双方ににとってストレスや軋轢のない環境を物理的に構築することを目指しています。

こういう研究を続けられるのも、私にコウモリや野生動物対策のご依頼をしてくださるお客様がいらっしゃるからです。皆さんからいただいた野生動物対策の収益を使わせていただき、今後もコウモリや野生動物の研究を続けていきます。

なお、この記事は、当論文の第2著者である山岸淳一が、引用の範囲内という立場で書きました。

最後に、私がかわほりプリベントの事業活動とは別に参加している、クビワコウモリの調査研究や保護活動をしている団体「クビワコウモリを守る会」のウェブサイトリンクも記載しておきます。興味のある方はご覧ください。

文献情報

山本輝正・山岸淳一・峰下 耕・中村桃子・西岡真智子・神谷郊美・安藤陽子・辻 明子・大沢夕志・大沢啓子・山本優磨・黒江美紗子・坂口龍之介・前田康宏・金沢大樹 (2026) 上高地にクビワコウモリを求めて. コウモリ通信 (33): 17-25.

この記事の執筆者・監修者

かわほりプリベント代表 山岸淳一

山岸 淳一 (Junichi Yamagishi)

かわほりプリベント代表。長野県を拠点に、コウモリや野生動物の研究をしながら、駆除対策の依頼には直接現場で対応している。動物と人間との間に生じた曖昧な境界線を整えることが使命。研究の専門領域は、長野県に生息するコウモリの生態研究(特に上高地や乗鞍高原など山岳地帯の希少種コウモリ)と、コウモリや野生生物の住宅や建築物への侵入メカニズムの解析研究。ハウスメーカー住宅から大学病院、重要文化財、古墳まで駆除対策の実績多数。SBC信越放送ラジオ「かわほり先生の生き物万歳」(毎月第4木曜)にレギュラー出演中。三度の飯よりコウモリが好き。

かわほりプリベントが、あなたのコウモリ被害、解決します。

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