野生動物対策の専門家・かわほりプリベントの山岸淳一が、コウモリの生態や対策について、知識と現場経験に基づいて解説します。
まずは日本と長野県のコウモリのことを詳しく
コウモリってどんな生き物?
コウモリは、哺乳類のなかで唯一、自力で空を飛べる生き物です。世界には約1,400種以上が知られており、日本ではおよそ35〜40種が確認されています(※2020年代の分類に基づく)。
最大の種は「ジャワオオコウモリ」で体重1.5kg、最小の「キティブタバナコウモリ」は1.5gと、体重差はおよそ1,000倍以上にもなります。
食性はさまざまで、世界のコウモリの7割以上が昆虫を食べる「昆虫食性」。残りの多くは果実や花粉を食べる「植物食性」、ごく一部に魚・カエル・動物の血液などを摂取する種もいます。
なお、日本に生息するコウモリに吸血性のものはいません。日本では約18種が昆虫食で、果実などを食べる植物食の種もごく一部確認されています。
コウモリは夜行性の動物で、昼間は「ねぐら」と呼ばれる隠れ家でじっと休んでいます。
そのねぐらの場所は種によって大きく異なり、自然の環境では洞窟、岩の隙間、樹の皮の下、葉の裏などが使われます。
一方で、人の生活圏にも進出しており、屋根裏、壁の中、換気口やシャッターの箱の内部など、人工建造物をねぐらにする種も少なくありません。

長野県に暮らすコウモリたち
日本には、これまでに37種のコウモリが記録されており、絶滅種2種を含めると計39種が知られています(『識別図鑑 日本のコウモリ/こうもりの会編』より)。
そのうち、長野県では19種のコウモリが確認されており、高原・森林・人里などさまざまな環境に生息しています。
たとえば街なかでよく見られるのはアブラコウモリ(イエコウモリ)。洞窟やトンネルではキクガシラコウモリやモモジロコウモリが見られ、森林の樹洞にはヤマコウモリがすみついています。
また、夏には乗鞍高原でクビワコウモリが確認され、上高地の夜空にはニホンウサギコウモリの飛翔が観察されることもあります。
なお、長野県に記録されているコウモリの多くは、絶滅危惧種または準絶滅危惧種に指定されており、生息環境の保全が重要な課題となっています。
また、長野県に住むコウモリはすべて「鳥獣保護管理法における野生鳥獣」となりますので、駆除するにあたっては許可なく殺すことはできません。
※なお、コウモリの種数については、分類体系や研究の進展により見解が分かれることもあります。本記事では、私も所属している「こうもりの会」による公式見解に基づき、
『識別図鑑 日本のコウモリ』(2023年・文一総合出版)を準拠資料としています。

建物にすみつくコウモリたち
長野県で、私自身が実際に人家へのすみつきを確認したコウモリは、
アブラコウモリ(イエコウモリ)、クビワコウモリ、コキクガシラコウモリ、ニホンウサギコウモリ、ヤマコウモリの5種です。
このほかにも、キクガシラコウモリがトンネルや古い建物などを利用していた事例や、
ヒナコウモリ・ヒメホオヒゲコウモリが建物を利用していたという研究報告もあります。
種によって程度の差はありますが、人間の建造物をねぐらとして使うコウモリは少なくありません。
私が実際に対応するコウモリ相談の約8割は、**アブラコウモリ(イエコウモリ)**によるものです。
この種は「住家性コウモリ」とも呼ばれ、洞窟や森林にはほとんど住まず、人間の建物だけをねぐらとして利用します。
私が実際に対応するコウモリ相談の約70〜80%は、アブラコウモリ(イエコウモリ)によるものです。
この種は「住家性コウモリ」とも呼ばれ、洞窟や森林にはほとんど住まず、人間の建物だけをねぐらとして利用する特異な生活様式を持っています。
その一方で、近年ではニホンウサギコウモリやキクガシラコウモリに関する調査・対策の相談も増えてきています。
実際に私が対応した事例では、
- 伊那市や駒ヶ根市の住宅でニホンウサギコウモリの対策工事、
- 箕輪町の重要文化財建築(寺院)で、ニホンウサギコウモリとキクガシラコウモリの複合対応、
- 飯田市の国道橋梁でキクガシラコウモリの調査・排出、
- 原村や立科町の別荘でニホンウサギコウモリの再侵入防止対策、
- そして塩尻市の寺院でのキクガシラコウモリの対策など、多様な環境での対応を行っています。
こうしたアブラコウモリ以外の種に関する相談は、全体の約3割を占めており、特に文化財や別荘、トンネルなどの特殊な構造物では、複数種のコウモリが同時に関与しているケースも珍しくありません。
種の同定と行動特性の把握をもとに、それぞれに応じた対策を立てることが重要です。

アブラコウモリが建物にすみつく理由とその習性
アブラコウモリは、**洞窟や樹洞などの自然環境にはほとんど住まず、人工の建物だけをねぐらにする「住家性コウモリ」**です。
天井裏、壁の中、換気扇、瓦の隙間、雨戸の戸袋、シャッターの箱、外壁の通気層、妻飾りの裏など、人間の住まいのごく小さなすき間を好んで利用します。
成体の体長は5cmほどと小型で、高さ8ミリ・幅1.5センチほどの隙間でも出入りできてしまうため、気づかれずに侵入・定着してしまうことも少なくありません。
特にメスが住みついた場合は、冬眠・出産・子育てをすべてその建物内で繰り返しながら長期的に定着し、
コロニー(集団)として徐々に数を増やしていきます。
実際に私が対応した松本市のある住宅では、天井裏で60頭を超えるアブラコウモリが確認された例もありました。
大きなコロニーでは100頭以上が一箇所に集まって暮らしていることもあります。
コウモリが住みついた被害事例写真

天井板と断熱材のすき間はアブラコウモリにとって快適なねぐらになりやすく、糞や尿による汚染が広範囲に及ぶことがあります。写真では、複数のコウモリと糞まみれの断熱材が確認できます。

換気扇のフード内部にアブラコウモリが侵入・定着し、フィルターが真っ黒になるほどの糞被害が出ていました。気密性の高い構造でも小さな隙間があれば被害が起こりうるという例です。

壁の中に住むコウモリの痕跡。糞が壁の隙間の中から出てきたら要注意です。外壁の通気層の中で生息します。(松本市で撮影)

サイディング壁の内部にコウモリがすみつき、通気層内での生活により、壁の隙間から糞が噴き出すように出てきている状態でした。壁の内側に黒い筋状の汚れが見える場合、すでに長期間生息している可能性もあります。
📘 コウモリの種類や生態をもっと詳しく知りたい方へ
👉 コウモリを知る|住宅にすむ3種とその特徴、生態の違いを詳しく解説
コウモリが建物に住みついた場合の対策手順
私が行っているコウモリ対策の基本は、**「中にいるコウモリを無理なく外へ出し、その後は二度と入れないようにする」**という方針です。
対策は以下のステップで行います:
① 専門機器による調査
コウモリの種類・おおよその数・被害状況・侵入口・将来的に侵入しうる隙間を、赤外線暗視カメラやバットディテクター、サーモグラフィなどを使って詳細に把握します。
② 一方向の出口をつけつつ、他の隙間を仮封鎖
すべての隙間を一気に塞ぐのではなく、コウモリが自然に出られる“出口”だけを残すように調整します。
③ コウモリを閉じ込めずに追い出す
出口デバイスを通して外へ出てもらい、建物内には戻れないように設計された機器を使います。
④ 生息ゼロを確認してから完全封鎖
すべてのコウモリがいなくなったことを確認後、出口デバイスを撤去し、恒久的に隙間を封鎖します。
⑤ 衛生処理・再侵入防止処置
糞の除去、殺菌・消毒、コウモリ由来のダニ・害虫への対応などを行い、再発リスクを最小限に抑えます。
※すべての工程は、現地調査と建物ごとの構造に応じたカスタム対応で行っています。

外壁や軒下にぶら下がる「ナイトルースト」問題
「夜になるとコウモリが外壁やベランダの軒下に止まっている」
「朝になると、壁や床に糞や尿が落ちていて困っている」
こうしたご相談は非常に多く、特に夏の夜間に多発する傾向があります。
このような場合、原因は大きく分けて以下の2つです:
- ① 建物のどこかに住みついていて、夜間に出入りしている
- ② ねぐらにはしていないが、外壁などを“休憩所”として利用している
後者のように、**夜間に一時的にぶら下がる場所のことを「ナイトルースト(Night Roost)」**と呼びます。
アブラコウモリは、エサ場とねぐらの間を移動する途中で、風を避けられ暗くて暖かい壁面や軒下などに一時的にとどまる習性があります。

上の写真は、**アブラコウモリが毎晩同じ場所にぶら下がっていたナイトルーストの典型的な事例(安曇野市にて撮影)**です。
白く縦にのびたシミは乾燥したコウモリの尿の痕跡で、黒い点々は糞の落下痕です。
コウモリの尿は本来透明〜黄色ですが、壁面に付着して乾燥すると、白っぽく粉を吹いたような汚れとして残ります。この尿汚れは非常に落ちにくく、市販の洗剤では除去が難しく、無理にこすると塗装が剥がれたり、変色したりすることもあります。
実際の被害事例を多数見てきた経験上、ナイトルーストができやすいのは次のような外壁です:
- 表面に凹凸がある外壁材(サイディングなど)
- 色が黒・紺・グレー系など濃色塗装の外壁(汚れが特に目立つ)
コウモリが好む環境条件と外観の変化、両方の側面からナイトルースト被害は軽視できない問題です。

団子状にぶら下がるナイトルーストの実例(箕輪町)
長野県箕輪町のお宅では、「毎晩、窓の上にコウモリが数匹まとまって止まっている」というご相談を受け、調査を行いました。
写真では、窓上の隅に黒く変色した部分が見えますが、これはコウモリの体が何度も壁に触れてこすれたことによる“体擦れ汚れ”です。
さらに、その下にある白い筋状のシミは、コウモリの尿が壁を伝って乾燥した跡です。この現場では、複数のアブラコウモリが“団子状”に密着してぶら下がっていたことが分かっており、夜間に集団でとどまる習性の一端が見られました。
なお、こうした体擦れ汚れや尿シミは、外壁が白系・ベージュ系など明るい色の場合に特に目立ちやすく、外観の印象を大きく損ねることがあります。
専門家によるナイトルースト対策は「種類判別」がカギ
私が現在おこなっているコウモリの外壁対策には、主に2種類の工法があります。
● ① 樹脂ネットによる物理的バリア工法
外壁全体に目立たない特殊な樹脂ネットを設置し、コウモリがぶら下がれない構造にします。
この方法は特に古民家や歴史的建築物の外観を損なわないように設計されており、建築の保全と両立させたい現場に適しています。
● ② 独自開発の「飛来防止反射板」によるコウモリ対策
外壁に特殊な反射板を設置することで、コウモリが壁に接近しにくくなり、ナイトルーストを形成しなくなる仕組みです。
実際に施工したの現場のほとんどで、1週間後の糞量が95%以上減少する効果が確認されています。
ただしこの対策は、アブラコウモリなど特定の種に対して高い効果を発揮する一方で、すべてのコウモリに効くわけではありません。
そのため、飛来しているコウモリの種類を正しく同定することが、成功のカギとなります。
だだし、コウモリは生き物であり、飛来のパターンやとまる場所は、建物の構造・周辺環境・季節などによって大きく異なります。
ナイトルースト対策は効果の高い工法ですが、すべての現場・すべてのコウモリに100%の効果を保証できるものではないことも事前にご理解いただければと思います。
ナイトルースト対策の実例:ビフォーアフター
下の写真は、私が実際に施工した外壁のナイトルースト対策工事の事例です。
● 施工前:外壁の下には多数のコウモリの糞が落ちており、毎朝掃除が必要な状況でした。
● 施工後(1週間経過):糞の落下がほぼゼロになり、明らかに飛来数・滞在時間が激減していることが確認できました。
このように、建物やコウモリの種類に応じた最適な対策を講じることで、被害の大幅な軽減が可能です。
ナイトルーストによる外壁汚れや糞害でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。専門調査機器を用いて原因を特定し、最も効果的な対策をご提案いたします。



コウモリのナイトルーストで困っている方は、一度ご相談ください。
よくある質問(コウモリ)
建物の構造・被害の程度・必要な工法によって、すべて異なります。
コウモリ対策は、**ひとつとして同じ状況の現場が存在しない「完全オーダーメイドの作業」**です。
料金を決めるには以下のような条件を一つずつ確認する必要があります:
- コウモリの種類と被害の範囲
- ねぐらの位置(天井裏・壁内部・換気口など)
- 作業場所の高さや足場の必要性
- 侵入口の大きさ・数・材質(木造・ALC・サイディングなど)
- 昼のねぐらか夜のナイトルーストかなどの行動パターン
このような条件は一つ変わるだけで、必要な部材・手間・作業時間がまったく変わってきます。
そのため、私は現地に実際に足を運び、建物を調査し、ご相談を丁寧にお聞きした上で、適切な対策をご提案・お見積りしています。
価格だけでなく、「なぜこの対策なのか」も含めて納得していただけるよう努めておりますので、どうぞご安心ください。
冬になっても完全にいなくなったとは限りません。
コウモリは哺乳類であり冬眠をする生き物です。特にアブラコウモリなどは、気温が低くなると活動を止め、屋根裏や壁内部などで冬眠に入ることがあります。
そのため、糞が落ちなくなったからといって必ずしもいなくなったわけではなく、目に見えない場所で静かに冬を越している可能性もあります。
冬の間は活動が少なくなるため被害も一時的に落ち着きますが、春から夏にかけて活動が再開され、再び被害が表面化することがよくあります。
冬のうちに調査を行うことで、被害が少ない時期に適切な対策を準備・実施することが可能です。
ご心配な場合は、お早めにご相談ください。