30秒でわかる:コウモリの爪
なぜコウモリは外壁を登れるのか?
爪の構造と進化に理由があります。
空を飛ぶ前にまず「爪で木を登る」能力を発達させてきたからです。
コウモリが外壁にぶら下がっていられる理由は?
逆さまになったとき、まず足の爪に自分の体重がかかります。すると自動的に足の腱が引っ張られ、筋肉を使わずに、爪が閉じた状態で固定されるという機能を持っているからです。
必死にぶら下がっているわけではありません。
コウモリは凹凸の少ない外壁をどうやって爪を使って侵入しているのですか?
わずか1ミリの段差に爪を掛けて、登ったり、体操選手のように体をスイングさせたりして隙間へ侵入しています。
結論:コウモリの爪とは
重力を克服し、侵入ルートを確保するための「最強のアンカー(錨)」です。

現場で出会う「獣」の姿:コウモリの爪に刻まれた5000万年の進化
こんにちは、かわほりプリベント代表の山岸淳一です。この「コウモリ対策の専門家が教える定義と現場考察シリーズ」も6本目です。今日はコウモリの爪のお話です。
頭上を飛び交うコウモリたちは、紛れもなく「夜空の支配者」です。
しかし、ひとたび彼らが壁にとまった瞬間、そこで私の目に飛び込んでくるのは、翼を持つヒラヒラとした生き物ではなく、生々しい爪を持つ獣(けもの)としての姿です。
コウモリが空を飛ぶために極限まで軽量化された翼の先端に、なぜ鋭利なフックが残されたのか?
この「爪」という器官にこそ、彼らの進化の秘密と、過酷な自然界を生き抜くための計算が凝縮されています。
今回は、コウモリの爪について、生物学的なメカニズムと進化の視点から解説していきます。
進化の化石:始祖「オニコニクテリス」が語る進化の謎
実はコウモリの爪の数に注目すると、彼らがどのような進化を経て、空を飛ぶ能力を手に入れたのかが分かります。
現在、世界に住むコウモリの多くは、翼の指に爪をほとんど持っていません。
日本の本州にいるような小型コウモリ類は原則として「1本(親指のみ)」、オオコウモリ類でも「2本(親指と人差指)」が基本です。
しかし、約5250万年前の地層から発見された最古級のコウモリ化石「オニコニクテリス・フィネイ(Onychonycteris finneyi)」には、驚くべきことに翼の指5本すべてに鋭い爪がありました。
なぜ、昔は5本もあった爪が、今はこれほどまでに減ってしまったのでしょうか。
その理由は、コウモリが選んだ「飛行」と「休息」の独自のスタイルにあります。
これまでコウモリの飛行の起源については、二つの有力な仮説がありました。
滑空先行説(Gliding-first hypothesis)
ムササビのように木から木へ滑り降りるうちに、羽ばたく能力を得たという説。
逆さま・ぶら下がり先行説(Upside-down-first hypothesis)
まず足でぶら下がる能力を磨き、枝の下を移動しながら翼を発達させたという説。

この始祖コウモリが「5本の爪」を保持していたという事実は、彼らがまず、その爪をアンカーにして木を縦横無尽によじ登る、卓越した「樹上生活者」であったことを強力に裏付けています。
つまり、彼らは「滑るように飛ぶ」ことを選ぶ前に、まず爪を使って重力に逆らい、「登る・ぶら下がる」道を選んだ。このスタイルこそが、後にコウモリを他の飛翔動物にはない「逆さまの休息」という境地へと導きました。
では、なぜ爪は減ったのか。それは飛行能力の向上に伴う「軽量化」と「空気抵抗の削減」の結果です。
翼を高速で羽ばたかせる際、指先の爪は空気の乱れを生むノイズとなり、重りにもなります。そこで彼らは、飛行に不要な爪を一本、また一本と捨てていきました。
現在の「爪1本」という簡素な姿は、彼らが木登りの道具を捨て、飛行という機能に特化して進化してきたという証拠でもあるのです。
コウモリが天井にぶら下がることができる理由:驚異の身体構造
さて、コウモリといえば逆さまにぶら下がる姿が印象的です。実はここにも驚くべきメカニズムが隠されています。

小さいころ、学校の校庭で鉄棒にぶら下がったときのことを思い出してください。
自分の体重を支えるために、腕や手のひらの筋肉を必死に使い、数分もすれば握力が尽きて地面に飛び降りたはずです。人間にとって「ぶら下がり続ける」ことは、多大なエネルギーを消費する重労働に他なりません。
しかし、コウモリはぶら下がるために筋肉を一切使いません。 彼らの足には、体重がかかると腱(けん)が自動的に収縮し、爪が閉じた状態でガチッと固定される特殊な機能が備わっているからです。
この仕組みを専門的には、受動的係留装置(Passive Digital Lock)と呼びます。
この「自動ロックシステム」の構造です。
体重が「スイッチ」になる
コウモリが逆さまになると、自分の体重(重力)によって、足の指を曲げるための足の腱が下に引っ張られます。
すると、自動的に噛み合う
この引っ張られた腱の表面には、ギザギザの凹凸があります。
これが、腱の通り道にある「ストッパー」とガチッと噛み合います。これは、一方通行にしか動かない「ラチェット機構」という、結束バンドと同じ仕組みになっています。
重いほど外れない
体重がかかっていればいるほど、このギザギザは強く噛み合う。だから外れないわけです。
これにより、彼らは睡眠中や冬眠中はもちろん、たとえ死んで生命活動を停止した後であっても、エネルギー消費ゼロで天井に張り付き続けることが可能です。
私は、住宅の庇や軒天、洞窟の天井で、亡骸となったコウモリがなおぶら下がり続けている光景を現場で見かけることがあります。それはこの物理的なロック機構が解除されないためです。
生きるためのエネルギーをすべて「飛ぶこと」や「狩り」に回すため、休むときのコストを物理的な仕組みでゼロにする。
死んでもなお働き続けるこのシステムに、コウモリという生き物の進化の異質さが垣間見えています。
コウモリの爪と外壁1ミリの段差にひっかける技術|山岸淳一の現場レポート
私が住宅の現場でアブラコウモリ(Pipistrellus abramus)の対策をする時、特に重視しているのは、「コウモリの爪の性能に対して、その建物の外壁の素材や塗装など外観はどうなのか」ということです。
建物によって無数の外壁構造がありますし、経年で劣化が起きます。一見すると平らに見える外壁であっても、コウモリにとっては十分な足場になります。
実のところ、わずか1ミリの段差、あるいは塗装の小さな剥がれさえあれば、彼らはその鋭い爪をアンカーとして打ち込み、垂直な壁面はおろか、重力に逆らう天井面さえも移動します。
先日、北アルプスの麓、豊かな自然と住宅地が隣接する長野県安曇野市の集合住宅で目撃したコウモリには、ただ驚かされました。
その物件は外壁と庇(ひさし)軒天の取り合いに、屋根裏の空気を取り入れる通気の隙間がありました。外壁はツルツルしており、一見するとコウモリが登ることは不可能なはずです。しかし、そこを繁殖のねぐらとしていたのです。
野生動物用暗視カメラで調査したところ、そこには驚くべき光景が映っていました。


アブラコウモリは、前肢の親指と後足の爪を巧みに使い分け、天井面のわずかな凹凸を支点にして、さながら平行棒を操る体操選手のようにスイングしながら隙間へ侵入していたのです。
飛行能力以上に、この爪による高度なクライミング能力こそが、彼らの生存戦略の核であると痛感した瞬間でした。
私たちは野生動物を「○○はしない」「○○は苦手だ」とパターンで決めつけてしまいがちです。しかし現場では、その定説を覆す個体に多々出会います。
私は、生態学や解剖学の知見をベースにしつつ、現場での泥臭い観察経験を組み合わせることで、「その建物にとってベストな対策」を常に模索しています。
それが私の存在理由であり、コウモリの爪という小さな器官から学んだ「生き抜くための執念」への答えでもあります。
コウモリの爪のよくある質問
後肢に備わった「受動的把持機構(じゅどうてきはじきこう)」という自動ロックシステムのおかげです。自分の体重がかかることで足の腱が引っ張られ、筋肉を使わずに爪が閉じた状態で固定されます。この仕組みにより、エネルギー消費ゼロで、睡眠中や冬眠中、さらには死後であってもぶら下がり続けることが可能です。
約5250万年前の始祖コウモリ「オニコニクテリス」は、現代種とは異なり5本の指すべてに鋭い爪を持っていました。これは彼らが空を飛ぶ前に、まず爪を使って木を登る「樹上生活者」であったことを示しています。
進化の過程で飛行能力を高めるため、多くの爪を捨てましたが、生存に不可欠な親指と後肢の爪だけが現代まで残されました。
表面そのものを登ることはできませんが、板金の継ぎ目やわずか1ミリの段差、塗装の剥がれさえあれば、そこをアンカー(錨)にして爪を掛け、自在に移動します。特にガルバリウム板金の接続部などは、彼らにとって有力な足がかりとなります。
はい、あります。モルタル壁などではコウモリの皮脂による「アブラ汚れ」が目立ちますが、金属壁では汚れが定着しにくいため、痕跡が残らないことがあります。
その代わりに、金属面には彼らが必死に足場を探して引っ掻いた「微細な爪キズ」が残ることが多く、これがプロの調査における重要なサインとなります。
足場の悪い壁面で、周囲に激しく飛び散った「尿の飛沫汚れ」がある場合は要注意です。これは、滑りやすい壁面で何度も着地と飛行を繰り返した(トライ回数が多い)証拠であり、そのすぐ近くにねぐらや侵入口が隠されている可能性が高いと言えます。
単なる「穴」だけでなく、彼らが爪を掛けることができる「線の隙間(板金の継ぎ目など)」を構造的に塞ぐことが重要です。
1ミリの段差も足がかりにする彼らの能力を前提とし、爪が立たない素材での補強や、ミリ単位の精度での封鎖施工が必要となります。また、そもそも飛来させないようにする対策も有効です。
主な成分は「ケラチン」です。
人間の爪や髪の毛と同じタンパク質の一種で、非常に硬く摩耗に強いのが特徴です。この強固なケラチン質の爪があるからこそ、硬い外壁や岩肌に繰り返し引っ掛けても、折れたり擦り減ったりすることなく使い続けることができるのです。
参考文献
Simmons, N. B., Seymour, K. L., Habersetzer, J., & Gunnell, G. F. (2008). Primitive Early Eocene bat from Wyoming and the evolution of flight and echolocation. Nature, 451(7180), 818–821. https://doi.org/10.1038/nature06549
Riskin, D. K., Willis, D. J., & Swartz, S. M. (2006). The effect of roosting position on the climbing performance of bats. Journal of Experimental Biology, 209(23), 4753–4760. https://doi.org/10.1242/jeb.02575
Kobayashi, M. (2019). Anatomical study of hind limb musculature in Chiroptera (Mammalia). [コウモリ類 (Chiroptera) 後肢筋系の解剖学的研究]. Doctoral dissertation, Okayama University of Science. https://ous.repo.nii.ac.jp/records/4726
補足:おすすめ論文について
上記参考文献として記載した小林優恭氏の論文は、コウモリの身体構造(特に後肢の筋肉系)を理解する上で極めて素晴らしく、私自身も現場での生態考察において多大な影響を受けています。
専門的な内容ではありますが、コウモリがなぜあのような特異な動きができるのか、その「答え」が解剖学的に示されています。興味のある方は、ぜひPDF外部リンクから一読されることを強くお勧めします。ご面識はありませんが、おすすめせずにはいられません!
この記事の執筆者・監修者
山岸 淳一 (Junichi Yamagishi)
長野県を拠点に活動する「野生動物の仕分け屋」。かわほりプリベント代表。動物と人間との曖昧になった境界線を整えることを使命とし、重要文化財から一般宅まで実績多数。SBC信越放送「もっとまつもと!」にレギュラー出演中。三度の飯よりコウモリが好き。
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