こんにちは。長野県でコウモリの生態調査と野生生物の建築物侵入メカニズムを専門に研究している、かわほりプリベント代表の山岸淳一です。長野県におけるコウモリ・野生動物対策の専門研究機関として、科学的エビデンスに基づいた正確な情報をお届けします。
【30秒でわかる】コウモリの夜の外壁休憩所「ナイトルースト」の正体
- 「巣」ではなく「夜の休憩所」
- 昼間に寝ている「ねぐら」とは違い、夜の狩りの合間に獲物を消化したり羽を休めたりするために、一時的に立ち寄る場所のことです。
- 穴埋め工事は「見当違い」
- フンが落ちていても、そこは侵入口ではないケースが大半です。ここに必要なのは「穴埋め」ではなく、壁をつるつるにする、照明を当てるなどして「止まりにくくする対策(忌避)」です。
- 放置すると昼間も住んでしまうようになることがある
- 毎晩の尿に含まれる塩分や酸が建材を腐食させます。最初はただの壁でも、劣化して隙間が広がれば、ある日突然「休憩所」が「侵入口」へと昇格することがあります。
- ナイトルーストしている近くに隙間があれば、そこから侵入する可能性が高いです。
コウモリのナイトルーストとは?

コウモリのナイトルーストの定義
今回はコウモリが外壁にへばりついて休んでいるあれ、ナイトルーストの解説です。
ナイトルースト(Night Roost)とは、コウモリが夜間の採餌活動の合間に、一時的に羽を休めたり、捕まえた獲物を消化・排泄したりするために立ち寄る「休憩場所」のことです。
昼間に睡眠をとる本格的な「ねぐら(Day Roost)」とは明確に区別されます。
アブラコウモリの場合、日没後に出巣して数時間飛び回った後、玄関ポーチの隅、ベランダの軒下、壁面の凹凸などに爪をかけてぶら下がります。
外壁のナイトルーストでコウモリは何をしているのか?
「ただ休んでいるだけなら、フンなんて落とさずに静かにしていてほしい」
そう思われるかもしれませんが、彼らにとってナイトルーストは単なる休憩所ではありません。
1.飛行のための「急速減量(軽量化)している
一晩に体重の半分近くもの昆虫を食べる彼らは、満腹状態では体が重くうまく飛べません。そのため、壁面に止まって驚異的な速さ(平均約45分)で消化・排泄を済ませます,。
下に散らばる大量のフンは、次の狩りへ向かうために必死で体を軽くした「努力の痕跡」なのです。
2. エネルギーの温存と体温調整
空を飛ぶという行動は、激しく体力を消耗します。だから、狩りの合間の休憩は不可欠です。
気温が低い夜は、無駄なエネルギーを使わないよう、じっと動かずに体力を温存する「省エネ待機」を行っていると考えられます。
3.出会いと社交場
単なる休憩所ではありません。母獣がまだ飛ぶのが苦手な子供を一時的に待たせる「保育所」や、離乳後の若者が集まる「社交場」としても機能します。
「私の家の外壁でなにしてくれとんじゃ!」と思うかもしれませんが、彼らに悪気はありません。
ナイトルーストのことを知らないと、コウモリ対策はうまくいかない
よくある失敗例として、ナイトルーストの下に落ちているフンを見て「この真上に巣(侵入口)があるはずだ」と誤断し、無関係な隙間を塞いでしまうケースがあります。
しかし、ナイトルーストは単なる「休憩所」であり、建物内部への侵入口ではありません。 そのため、ここには「封鎖工事」ではなく、飛来を防止する対策など「居心地を悪くする対策(忌避)」が必要となります。
山岸淳一の現場考察~長野県のコウモリ対策の現場から~
隣の家には来ないのに、なぜかうちの家だけコウモリは来る
「なぜ隣の家ではなく、ウチだったのか?」
コウモリで困っている人の多くは、ご近所さんはどうなんだろうと考えるようです。そして、「うちだけっぽい」という結論に至ります。そんなことないんですけどね。
コウモリはなぜ、その家を選んだのか?
私は「家の性能(壁)」と「環境(立地)」の掛け算で決まると答えています。
まず立地です。
アブラコウモリは、障害物の多い森の中よりも、河川や農地といった「オープンスペース(開けた空間)」や「水場」を選択的に利用して飛翔することが、多数の研究で証明されています。 つまり、目の前に川や公園、駐車場がある家は、彼らにとって「餌場からのアクセスが良い一等地の休憩所」なのです。
次に壁の質です。
「吹き付け塗装(リシンやスタッコ)」や「凹凸のあるサイディング」は、コウモリの鋭い爪にとってただの登りやすい壁です。
逆に、金属サイディングのようなツルツルした壁では、爪がかからずナイトルーストになりにくい傾向があります。また、軒が深く「影」ができる場所は、外敵(フクロウやカラス)から身を隠すのに最適であり、彼らはそこに執着します。
最も恐ろしいのは、「休憩所の建物が、昼間のねぐらにも使われるようになること」です。
ナイトルーストとして使われ続けると、日々の尿に含まれる塩分や酸が建材を徐々に侵食します。最初は単なる休憩場所だった壁面の目地や換気口周りが、尿害と経年劣化でボロボロになり、わずか数ミリの隙間が拡大した瞬間、そこは「休憩所」から「侵入口」へと変わります。
特に長野のような寒暖差の激しい地域では、冬眠前の秋口にこのナイトルーストでじっとしているコウモリの姿を見かけます。冬が来る前の早めの対策が、翌春の被害を防ぐ鍵となります。
コウモリのナイトルーストよくある質問FAQ
ナイトルーストとは、コウモリが夜間の採餌活動の合間に、一時的に羽を休めたり獲物を消化したりするために立ち寄る「夜間休憩所」のことです。
日中に睡眠をとる「ねぐら(デイルースト)」とは異なり、建物内部へは侵入せず、外壁の凹凸や軒下などに数時間だけぶら下がるのが特徴です。
最も確実な見分け方は、フンが落ちている場所の直上に「数ミリの隙間や穴」があるかどうかを確認することです。
ナイトルーストは壁の外側に捕まっているだけなので隙間はありません。一方、ねぐらの場合は、フン害箇所のすぐ近くに建物内部へ続く出入り口が存在します。
いいえ、将来的な侵入リスクを避けるために早めの飛来防止対策を推奨します。
ナイトルーストとして定着すると、尿による建材の劣化が進みます。また、hナイトルースト近くの隙間から建物内部へ侵入して住みかとする行動が起こる可能性があるからです。
参考文献
Funakoshi, K., & Uchida, T. A. (1978). Studies on the physiological and ecological adaptation of temperate insectivorous bats: III. Annual activity of the Japanese house-dwelling bat, Pipistrellus abramus. Journal of the Faculty of Agriculture, Kyushu University, 23(1/2), 95–115. https://doi.org/10.5109/23682 +2
Avila-Flores, R., & Fenton, M. B. (2005). Use of spatial features by foraging insectivorous bats in a large urban landscape. Journal of Mammalogy, 86(6), 1193–1204. https://doi.org/10.1644/04-MAMM-A-085R1.1
この記事の執筆者・監修者
山岸 淳一 (Junichi Yamagishi)
かわほりプリベント代表。長野県を拠点に、コウモリや野生動物の研究をしながら、駆除対策の依頼には直接現場で対応している。動物と人間との間に生じた曖昧な境界線を整えることが使命。研究の専門領域は、長野県に生息するコウモリの生態研究(特に上高地や乗鞍高原など山岳地帯の希少種コウモリ)と、コウモリや野生生物の住宅や建築物への侵入メカニズムの解析研究。ハウスメーカー住宅から大学病院、重要文化財、古墳まで駆除対策の実績多数。SBC信越放送ラジオ「かわほり先生の生き物万歳」(毎月第4木曜)にレギュラー出演中。三度の飯よりコウモリが好き。
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