大寒冷期を「体のハイテク化」で突破せよ!|コウモリ論文読み解くシリーズ

こんにちは、かわほりプリベントの山岸です。この記事はコウモリ関係の論文を紹介して考察してみるシリーズです。

今回紹介する論文は、W. YU(ユー)氏らによる『Early diversification trend and Asian origin for extant bat lineages(現生コウモリ系統の初期多様化傾向とアジア起源)』です。

それでは、コウモリの世界の論文解説を開始します!

1分でわかる記事まとめ

コウモリの故郷はアジア

最新の遺伝子解析により、現生コウモリの共通祖先はアジアで誕生し、そこから世界へ広がった可能性が極めて高いことがわかりました。

大寒冷期を逆手に取った進化

約3,500万年前、地球が急激に冷え込んだ際、多くの生物が衰退する中で、特定のコウモリたちは逆に爆発的に種類を増やしました。

「省エネモード」の実装

寒さを乗り切るために、冬眠(低代謝)や精子貯蔵といった、過酷な環境でも生き残れる「体の仕組み」を独自に進化させたのが勝利の鍵です。

イントロダクション

コウモリは、哺乳類の中で唯一自力で空を飛ぶことができ、エコーロケーション(反響定位)という高度な知覚システムを持つユニークなグループです。 日本の都市部でよく見かけるアブラコウモリ(Pipistrellus abramus)などは身近な存在ですが、その進化の歴史はこれまで多くの謎に包まれてきました。

一般的な誤解として「コウモリはどこでも同じように進化した」と思われがちですが、実際には化石記録が乏しく、どこで誕生し、どのように世界へ広がったのかについて、研究者の間でも意見が分かれていたのです。


W. YU(ユー)氏らは、最新の遺伝子解析と地球の過去の気温データを組み合わせることで、この複雑な歴史を解き明かそうと試みました。

研究の目的と成果

本研究の結果、現生コウモリの共通祖先は「アジア」に起源を持ち、地球の気温変動と密接に関わりながら、特定の時期に急速な多様化を遂げたことが判明しました。

W. YU(ユー)氏らは、173属に及ぶ膨大な現生コウモリのデータを解析し、以下の事実を明らかにしました。

  • アジア起源の特定: 祖先分布の再構築により、現生コウモリはアジアで誕生した可能性が極めて高いことを示しました。
  • 気温と進化の相関: 誕生から約3500万年前までは、地球の気温が高い時期に多様化が進み、気温が下がると鈍化するという、外部環境に依存した進化をしていました。
  • 逆境下での加速: しかし、約2500万〜3500万年前の激しい寒冷期(漸新世)において、オオコウモリ科やヘラコウモリ科、ヒナコウモリ科といった特定のグループが、気温の低下に反して急速に種を増やしたことが確認されました。

深掘り考察

なぜ、地球が冷え込むという「生存に不利な状況」で、コウモリたちは多様化を加速させることができたのでしょうか。

W. YU(ユー)氏らは、これを「内因的なイノベーション(内部的な革新)」によるものだと推測しています。 初期の進化は「飛べるようになった」「エコーロケーションを得た」といった、空いたニッチ(生態的地位)を埋めるプロセスでした。 しかし、3500万年前以降の寒冷期における進化はそれとは異なります。

例えば、ヒナコウモリ科などは、寒冷な気候を生き抜くために「休眠(トーパー)や冬眠(hibernation)」、そして「精子の貯蔵(遅延受精)」といった、生理学的な特殊能力を発達させたと考えられます。

物理的に飛行に特化しきった身体を持ちながら、中身(生理機能)を過酷な環境に合わせてアップデートしたことで、熱帯だけでなく温帯や亜寒帯へと進出する戦略的な勝利を収めたのです。

かわほりプリベント山岸淳一の「現場研究者の眼」

論文では、アジア起源のコウモリたちが、寒冷化という逆境の中で「内因的な工夫」によって爆発的な多様化を遂げたとしています。

この「逆境で化ける」という議論に対し、僕が現場で感じるのは、彼らの持つ「ポテンシャル」と「図太さ」です。

木にぶら下がったり、夜という誰もいない時間に活動の場を移したり……。 そもそもコウモリには、厳しい環境に追い込まれた際に、誰も選ばないようなニッチ(隙間)へ逃げ込み、そこで生き抜くポテンシャルが備わっていたのでしょう。

今の彼らは、骨格から何から「飛行」という一つの目的に特化しきっています。 現場でその姿を見るたび、この極限まで無駄を削ぎ落とした身体から、かつての「這い回っていた祖先」を想像するのは難しいほどです。

特に、僕の住む長野県もそうですし、特に都市部でこれほどまでにアブラコウモリが繁栄している理由。 論文が言う「賢さ」も確かにあるでしょうが、現場の感覚では、何より「図太さ」が勝利の鍵だと感じます。現場でコウモリを見ていると、 神経質な種のコウモリって結構いるんです。でも、 並の生き物なら神経質になって逃げ出すような環境変化も、アブラコウモリはどこ吹く風で利用してしまう。

「追い詰められて進化を加速させた」という論文のデータは、現代のアブラコウモリが持つ、あの少し図太いほどの生存戦略の歴史とその祖先を裏付けているのかもしれません。

金属製換気口の外壁ガラリの内側に、2頭のアブラコウモリが身を寄せ合うようにして入り込んでいる接写写真。
長野県飯島町の換気口内部に潜む2頭のアブラコウモリ

FAQ

Q
コウモリが寒冷期に種を増やせたのはなぜですか?
A

外部環境に合わせて進化するだけでなく、「低代謝状態(トーパーや冬眠)」や「遅延受精(精子の貯蔵)」といった、エネルギーを徹底的に節約する生理学的な工夫を自ら獲得したからです。これにより、餌の少ない冬がある地域でも生存と繁殖が可能になりました。

Q
論文が示す「コウモリのアジア起源説」の根拠は何ですか?
A

W. YU氏(2014)らが173属の膨大な遺伝子データを解析し、祖先の分布をシミュレーションした結果、現生コウモリのルーツがアジアにあるという強い証拠が得られました。

Q
現場の視点から見たコウモリの強さとは?
A

論文が示す進化の歴史に加え、現代のアブラコウモリに見られるような「多産さ」と「環境への図太さ」です。追い詰められたニッチ(隙間)を逆手に取って利用する高い生存能力が彼らの本質です。

参考文献

Yu W, Wu Y, Yang G. Early diversification trend and Asian origin for extant bat lineages. Journal of Evolutionary Biology. 2014;27(10):2204–2218. doi:10.1111/jeb.12477. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25244322/[]

この記事の執筆者・監修者

かわほりプリベント代表 山岸淳一

山岸 淳一 (Junichi Yamagishi)

長野県を拠点に活動する「野生動物の仕分け屋」。かわほりプリベント代表。動物と人間との曖昧になった境界線を整えることを使命とし、重要文化財から一般宅まで実績多数。SBC信越放送「もっとまつもと!」にレギュラー出演中。三度の飯よりコウモリが好き。

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